宮城県沿岸におけるAlexandrium属シストの分布
一見和彦*1・山崎 誠*2・鈴木敏之*3

 宮城県沿岸はカキを中心とした二枚貝養殖の盛んな海域として全国に知られているが、現在、石巻湾および仙台湾を中心にAlexandrium属を原因種とした麻痺性貝毒が二枚貝から検出されている。Alexandrium属を含む渦鞭毛藻類には生活史の中に休眠期を持つものが多く、増殖に不適な環境下ではシスト(休眠胞子)となって海底泥中に棲息している。シストは遊泳細胞が増殖するうえでの出発点として機能することから、海域におけるシストの水平分布および量的分布を把握しておくことは大変重要である。本研究では、宮城県下におけるAlexandrium属の分布を把握する目的でその休眠胞子であるシストの分布に着目し、宮城県沿岸の表層堆積物中に含まれるシストの計数を行なった。その結果、気仙沼湾から鮫浦湾に至る金華山以北沿岸では、長面浦定点において1000〜1600 cysts/cm3という極めて高いシスト密度が認められたものの、その他の定点では検出されなかった。また、石巻湾では<7〜180 cysts/cm3という比較的高い密度が認められ、その分布の特徴として湾奥部では少なく、湾東・西部および湾口部で密度が高かった。仙台湾においても石巻湾と同程度のシスト密度が認められたが、松島湾では検出されなかった。調査結果から、宮城県沿岸において麻痺性貝毒が発生している海域とAlexandrium属シストの分布はよく一致していた。これより、石巻湾および仙台湾では、今後もAlexandrium属の増殖期には、遊泳細胞の定期的な調査及び二枚貝の毒化に対する監視が必要でり、シストが検出されない、あるいは極めて少ないという理由から、追波湾を除く北部海域においてはAlexandrium属が高密度に増殖する可能性は当面低いと推測された。また、Alexandrium属シストの分布は大および中河川が流入する海域に集中しており、河川の存在がAlexandrium属の棲息を支持している可能性が示唆された。
*1科学技術特別研究員
*2海区水産業研究部 海区産業研究室
 4/1付けで養殖研究所に転出
*3海区水産業研究部 海区産業研究室

Kazuhiko Ichimi, Makoto Yamasaki, Toshiyuki Suzuki