ニュージーランド留学を終えて

〜三人の自分〜

鈴木敏之


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ニュージーランドへ
ニュージーランドでの研究生活
1.エッソトキシン
2.クーリアトキシン
3.ペクテノトキシン
4.プロテインホスファターゼ阻害試験
終わりに
謝辞
文献

ニュージーランドへ
 1998年,8月30日は忘れられない日になりました.その日は9月1日からのオールギャランティーによるニュージーランドへの出張に向けて,塩釜の東北区水産研究所(東北水研)で,ニュージーランドに送り出す研究用器材や書籍類の最終チェックをしていました.おりしも,その日は関東地方への大型台風の接近に加えて,東北地方も大豪雨に見舞われ,いたる所で交通が麻痺状態になりつつありました.荷造りをしている私に,日曜出勤で論文をまとめておられた山下沿岸資源研究室長がときどき知らせて下さった交通情報は,「東北自動車道の上下線が一部区間不通」,「在来線の東北線も一部運転を見合わせている」といった情報ばかりで,最悪の場合,出国当日(9月1日)までに東京はおろか,仙台にすら出ることが難しくなるかもしれない,と考え始めていました.
 幸い仙石線と東北新幹線は無事運行していましたので,薄氷を踏む思いでその日のうちに東京までたどり着きましたが,その日の疲労感は一年以上を経た今でも鮮明に思い出されます.
 出発当日,ニュージーランド航空NZ090便の搭乗手続きをしているとき,搭乗者リストに私の名前が入っていないことがわかり,確認に時間をとられ前途多難を暗示しているかのようでした.さて,フライトは成田発,クライストチャーチ(ニュージーランド)経由,ネルソン(ニュージーランド)着の予定でしたが,クライストチャーチ空港が霧で閉鎖され,オークランドで入国手続きをすることになりました.オークランドから首都ウェリントンを経てネルソンに向かったのですが,ウェリントン空港ではネルソン行きの搭乗口が工事のために使えず,短い乗り継ぎ時間の間に特設搭乗口を探さなければならず,ここでも冷や汗の出る思いをしました.ネルソン空港に着いた私をLincoln Mackenzie,Lesley Rhodes両博士が笑顔で迎えて下さったときには,初対面ではありましたが,親友に出迎えられたような安堵感に浸っていました.
 こうして,私のニュージーランド留学は,豪雨の東北地方出発に始まった予期せぬトラブルの連続と,それとは対照的な私にとっては印象的な出会いから始まりました.

コースロン研究所
 コースロン研究所は,教会の鐘の音が町中に響き渡る静かな田舎町,ネルソンにある研究所です.貝毒の研究ではニュージーランドで最も進んだ研究を行っている機関の一つで,海洋生物毒の世界的権威である東北大学名誉教授,安元健先生とも親交の深い研究所です.また,東北水研の河村主任研究官がオールギャランティーで一年間滞在し,アワビの初期生態の研究で大きな成果をあげたところでもあり,東北水研にとっても大切なパートナーとなっていました.留学に興味を持ち始めていたころ,コースロン研究所が貝毒の機器分析の専門家を探していることを知り,河村さんの仲介もあり私の留学が決まりました.

ニュージーランドでの研究生活
1.エッソトキシン
 コースロン研究所で私が最初に手がけた仕事は,エッソトキシンと呼ばれる下痢性貝毒成分の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による微量分析法(Yasumoto and Takizawa, 1997)を,コースロン研究所のシステムに合うように改良し,さらに,より多くの検体を短時間に分析できるように改良することでした.原法では,熟練したケミストでも1週間に20検体程度の分析しかできません.その理由は,試料を精製する段階で,精製に用いた含水メタノールを除去するのに時間がかかるためです.そこで,精製用のカラムを再検討することにより,含水メタノールの使用量を減らし,一日,30検体程度の分析が可能になりました(Suzuki, 2000).これにより,実験が一気にスピードアップしました.
 次に,毒の起源となるプランクトンを給餌し,二枚貝を人工的に毒化させ,二枚貝の種間で毒化に違いがあるか否かを明らかにする実験を行いました.ニュージーランドの二枚貝産業で重要な種はミドリイガイとカキですが,特にエッソトキシンによるミドリイガイの毒化が顕著な問題となっています.エッソトキシンの起源は有毒プランクトンProtoceratium reticulatumであることが安元先生のグループとコースロン研究所のLincoln Mackenzie博士により明らかにされており(Satake et al., 1997),培養条件も確立していますので,われわれは,培養したProtoceratium reticulatumをミドリイガイ,ムラサキイガイ,カキにそれぞれ給餌し,蓄積したエッソトキシンをHPLCで分析しました.その結果,ミドリイガイからは高濃度のエッソトキシンが検出されましたが,ムラサキイガイからは痕跡程度,カキからは全く検出されませんでした(Mackenzie et al., in preparation).この結果は,ミドリイガイの毒化が特に問題になっている理由が,養殖場の地理的条件や原因プランクトンの有無などの違いから生じているのではなく,二枚貝の生理や生化学的特性に起因するであろう毒の蓄積能の違いから生じている問題であることを示しており,今後の対策を考える上で基礎的知見を示すことができました.

2.クーリアトキシン
 クーリアトキシンとは,オーストラリアの研究者により有毒渦鞭毛藻Coolia monotisから発見された毒成分です(Holmes et al., 1995 ).この毒成分はエッソトキシンの一対の硫酸基の一つが脱離したmono-sulphatedエッソトキシンであると言われていますが,その根拠はmono-sulphatedエッソトキシンに相当する質量スペクトルが測定されたということのみで,今一つ釈然としない部分を残した仕事でした.つまり謎の多い毒成分です.しかし Coolia monotis,すなわちエッソトキシンという連想は,少なからずの研究者が抱き続けていたことでした.
 ニュージーランド産のCoolia monotisはマウス毒性を示しますが,毒の正体は解明されていません.そこで,Lesley Rhodes博士と私は,毒の正体がエッソトキシンの同族体の可能性もあると推測し,ニュージーランド沿岸で採取したいくつかの株を用いてエッソトキシンのスクリーニングを行いました.その結果,ある株からエッソトキシンが極めて明瞭に検出されました.
 エッソトキシンが検出されたときのLesley Rhodes博士の喜び様は大変なものでした.エッソトキシンのHPLC分析では多角的にエッソトキシンを識別しますので,通常のHPLC法と比較すると格段に正確な識別が可能です.しかし,それでも化学分析の一手法に過ぎないことには変わりなく,もう一枚,決定的な証拠が必要だと私は考え始めていました.エッソトキシンが検出された興奮の金曜日の翌朝,つまり土曜日の朝のことでした.
 その日は休日でしたので,自宅であれこれ今後の方針を考えているとき,電話が鳴りました.研究部長Henry Kasper博士からの電話でした.「Lesleyからクーリアトキシンの話を聞いた.これは素晴らしい大発見だ.」といった内容でした.この電話のやり取りの後,私は当事者でありながら,少し覚めた気分になっていました.その理由は,HPLCのデータだけでエッソトキシンの存在を断定する気分にはどうしてもなれなかったからです.
 さて,月曜日に研究所に出勤した私にLesley Rhodes博士はある原稿を持ってきました.それは金曜日に出したデータをもとに書いた論文の原稿でした.この仕事は競争相手が多いから一刻も早く論文を出したい,ということです.私は,さらに決定的な証拠を集めてから報告した方が良いという話をし,その理由を詳しく説明しました.そして,確認試験の分析法として液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を提案しました.この分析法はHPLCによる識別に加えて,分子量に関する情報が同時に得られるため,ほぼ決定的な証拠を得ることができます.残念ながら,LC/MSはコースロン研究所にはなく,また,エッソトキシン同族体のLC/MSをやれる研究者がニュージーランドにはいませんでした.そこで,安元先生に相談することにしました.まず,HPLCで得られたデータをお送りし,より確実な確認試験を行いたい旨ご連絡したところ,幸い先生からも多大なご関心をお示しいただき,ぜひグループに加わりたいとのお返事でした.そこで,Coolia monotisの抽出液の一部を先生の元にお送りし,LC/MSの結果を待つことにしました.
 それから2週間後,待ちに待った分析結果が先生から電子メールで送られてきました.結果は,エッソトキシン同族体は検出されず.先生のご意見は,LC/MSの前処理の精製段階でエッソトキシン同族体を失った可能性もあるため,もう一度,トライしたい.試料を送ってほしい,とのことでした.先生の熱意に感激しましたが,その時点で,あるいは,もともとエッソトキシンは含まれていなかったのかもしれない,という考えが浮かんできました.あったものがなくなったのか?それとも,もともとなかったのか?あったものがなくなったとなると,「いつ,どこで,どうしてなくなったのか?」と話が複雑になってきます.そこで,もともとなかった,という仮説に基づいて実験をすることにしました.
 HPLC分析である成分をある成分と断定することは限界がありますが,ある成分とある成分が同一ではない(つまり、検出したものがエッソトキシンではなかった.すなわち,エッソトキシンはもともとなかった),ということを証明することは難しいことではありません.そこで,このことを証明するための実験を行った結果,検出されたピークはやはりエッソトキシンではないことがわかりました.Coolia monotisの毒成分の解明は,結局,ニュージーランド滞在中に攻略できずに終わってしまいました.しかし,私もLesley Rhode博士も近いうちに毒の正体を明らかにしたいと思っています.

3.ペクテノトキシン
 ニュージーランドでの研究生活も7ヶ月が過ぎようとしているころ,首都ウェリントンにあるInstitute of Environmental Science and Research Limited(ESR)のDavid Stirling博士からある依頼を受けました.ESRは,食品衛生関係の行政試験や法医学鑑定の化学分析,さらに関連する基礎研究などを一手に行う巨大な試験研究機関です.依頼の内容は「ESRで新しいLC/MSを購入したので,ペクテノトキシンの分析法の開発を手伝って欲しい」ということでした.東北水研ではLC/MSを頻繁に使っていましたし,下痢性貝毒の微量分析法を開発した経験もありました.そこで,こうした依頼が私に飛び込んできたわけです.
 ESRで購入したLC/MSはPerkin Elmer(PE)-SCIEX API 300という装置で,電子スプレーイオン化法を改良したイオンスプレーイオン化法(Perkin Elmerの特許技術)と呼ばれる方法でイオン化を行います.このイオン化法は海洋生物毒の分析にも広く応用されており,PE-SCIEX APIシリーズを使った注目すべき論文もいくつか出ていました.以前から使ってみたいと思っていた注目のしかも最新の装置です.
 この仕事はDavid Stirling博士,LC/MSの運転を担当するRick Berezowski博士,そして私の3人のチームでスタートしました.ESRの最新のLC/MSは搬入直後にもかかわらず,既に多くの研究グループが使用の予約をしており,われわれに与えられた時間はわずか1週間でした(土曜日も含めて正確には6日間).驚くことに,この機械は土日もフルに稼動しており,研究者は土日返上で運転のトレーニングや分析技術の習得に励んでいるとのことでした.
 さて,標的とするペクテノトキシンは下痢性貝毒の一種で,その同族体も多く,最近,ニュージーランドで注目されはじめている毒です.また,ペクテノトキシン同族体全成分の同時分析はいまだに開発されていません.しかし,これまでに報告されている下痢性貝毒成分のLC/MSによる分析例や私の東北水研での経験から,分析法を短期間で開発することに自信はありました.ところが,いざLC/MSの条件設定を始めてみると,溶媒やガスの漏れといった操作上のトラブル,さらに機械的なトラブルの連続で,最初の2日間は装置のコンディショニングと操作手順のトレーニングに費やされました.Rick Berezowski博士はこの装置の運転にはかなり熟練していましたが,それでも分析条件を大幅に変更するときには,こうしたトラブルは付きものです.3日目,ようやくペクテノトキシンの質量スペクトルの測定に成功し,4日目に精製したペクテノトキシン標準品のLC/MS分析が可能になりました.しかし,これだけでは「絵に描いた餅」のようなもので,学術的な意義はあっても,実際の試料に応用できなければ実学上の価値はありません.
 実は,ESRへの出張に先立ち,コースロン研究所でのHPLC分析により,ペクテノトキシンを含んでいそうな試料を3検体に絞り込んでいました.1つはニュージーランドのある海域で採取した有毒プランクトンDinophysis acutaです.残りの2つの試料は,採取したDinophysis acutaが高密度に観察されたときに,同じ定点で採取したミドリイガイとムラサキイガイでした.
 分析で特に注目していたペクテノトキシンは,ペクテノトキシン2-セコ酸と呼ばれる成分でした.ペクテノトキシン2-セコ酸は,最近,ニュージーランド産ミドリイガイとアイルランド産Dinophysis acutaから発見された新奇ペクテノトキシン同族体です(Daiguji et al., 1998).ニュージーランド産ミドリイガイのペクテノトキシン2-セコ酸の起源は明らかにされていませんでしたが,Dinophysis acutaであることは容易に推測できました.したがって,ミドリイガイのペクテノトキシン2-セコ酸をDinophysis acutaから検出し,同時にイガイからも検出することにより,Dinophysis acutaを原因種として特定することができればと,私とLincoln Mackenzie博士はその機会を待ち望んでいました.
 さて,実際にこれらの試料を分析してみると結果は予想外なものでした.というのも,ミドリイガイとムラサキイガイからは予想通りペクテノトキシン2-セコ酸が主要ペクテノトキシン成分として検出されたのですが,肝心の有毒プランクトンからはペクテノトキシン2と呼ばれる成分が主要成分として検出され,ペクテノトキシン2-セコ酸は痕跡程度しか含まれていなかったからです.LC/MSでペクテノトキシン同族体の同時分析を可能にする,という当初の目的は達成することができましたが,新たな謎を突きつけられた結果となりました.
 有毒プランクトンの毒成分はペクテノトキシン2,一方,イガイの毒組成はペクテノトキシン2-セコ酸.ペクテノトキシン2とペクテノトキシン2-セコ酸の構造上の違いはわずか1個所の違いですので,ペクテノトキシン2-セコ酸はペクテノトキシン2がイガイの体内で変換されて生じた毒成分である,という仮説は容易に浮かんできました.コースロン研究所に戻った私は,Lincoln Mackenzie博士と今後の方針について詳細な打ち合わせをしました.その結果,ペクテノトキシン2をDinophysis acutaから精製し,イガイの抽出液に添加し,ペクテノトキシン2-セコ酸に変換する実験を試みました.下痢性貝毒では,こうした実験は世界でも例がありません.その理由は,(1)精製した毒の入手が困難であること,(2)毒を精製する技術が普及していないこと,(3)毒の同族体の同時分析が困難であること,などがあげられます.われわれは,(3)に関してはESRでの実験で既に克服していましたし,(2)に関しては,東北水研での実験経験で,知識とある程度の技術を習得していましたから,技術的には十分可能な実験でした.そこで,すぐさま実験に取りかかりました.実験終了後,試料を持って再びウェリントンのESRに向かいました.ESRでの最初の実験から約1ヶ月後のことでした.
 分析は,前回同様,David Stirling博士,Rick Berezowski博士,そして私の3人で取りかかりました.チームワークは万全です.われわれに与えられた時間は3日間(木,金,土).土曜日は予備日として割り当てました.トラブルがなければ十分な時間です.しかし,案の定,トラブルが発生しました.今度はオートインジェクタ(試料自動注入装置)のトラブルです.コンピュータ関連のトラブルでは手におえませんが,メカニカルなトラブルでしたので応急処置が可能でした.こうしたトラブルもあって,全試料の分析が終了したのは,土曜日の午前11時頃でした.分析の結果,ペクテノトキシン2は予想通り,ペクテノトキシン2-セコ酸に変換されていました(Suzuki et al., submitted).データを見た瞬間,しばらく知的快感とその余韻に酔いしれていました.
 ペクテノトキシン2-セコ酸はペクテノトキシン2と異なり,極めて毒性が低いか無毒であることが知られています(Daiguji et al., 1998).われわれの実験は,二枚貝の体内で下痢性貝毒が速やかに解毒されたことを初めて示したものであり,今後,選抜育種などの技術により,ある毒成分に対しては毒化しにくい二枚貝を作ることも夢ではないことを暗示しています.それは,少し大げさな表現ですが,水産庁で貝毒被害対策研究という産業研究に取り組む一研究者にとって,未来に灯るわずかな光が見え隠れした一瞬でもありました.

4.プロテインホスファターゼ阻害試験
 下痢性貝毒のオカダ酸とその同族体の分析法として,プロテインホスファターゼ阻害試験があります.オカダ酸同族体には,プロテインホスファターゼの活性を強力かつ特異的に阻害する性質があり,この性質を利用した試験法です.近年,オカダ酸同族体の高感度な検出法として注目されています.コースロン研究所のDouglas O. Mountfort博士はこの試験法に関するいくつかの論文を書いている研究者です.最近,この試験法の欠点として,エステル型の同族体の検出能力が低いことを明らかにし,その改良に取り組んでいました.
 ある日,Douglas O. Mountfort博士,Lesley Rhodes博士,そして私がある研究者の接客のため,カフェで夕食を楽しんでいるとき,プロテインホスファターゼ阻害試験の話題になりました.いろいろと分析条件を検討しているのだが,エステル型の毒の検出は難しい,ということをDouglas O. Mountfort博士は力説していました.「エステル型の毒は加水分解して遊離の状態にしてから分析すれば良いのでは」という提案を何気なしに言ったところ,「それは君にもできるか」と切り返してきました.私は,「もちろん」と答えました.加水分解はケミストであれば誰でもできますし,エステル型の毒を加水分解して検出する,というアイディアは決して新しいものではありません.しかし,Douglas O. Mountfort博士にとっては斬新な発想の転換となったようでした.
 この仕事は,私が加水分解を担当し,毒の分解率などをHPLCでチェックしました.そして,エステル型の毒の加水分解物をプロテインホスファターゼ阻害試験で検出できるか否かをDouglas O. Mountfort博士が確認しました.最初から技術的な障害はありませんでしたので,この研究はすんなりと片付き,プロテインホスファターゼ阻害試験によりエステル型のオカダ酸同族体の検出が可能になりました(Mountfortet al., submitted).プロテインホスファターゼ阻害試験は簡便かつ迅速な検出法で毒の一次スクリーニング試験としては,有望な検査手法です.エステル型の毒成分が検出できるようになったことは,現場の検査機関にとっては朗報になったようです.

終わりに
 以上の研究は,ニュージーランドで取り組んだテーマの中から選んだトピックです.ニュージーランドの研究生活で最も印象的であったことは,必要なときに必要な研究者が組織の壁を越えて集まり,協力して研究を進めていく様でした.そのスピードに目を見張りながら,ときには大きな歯車となり,また,小さな歯車となって研究に参加する喜びは何ものにも代え難いものがありました.もちろん,日本の水研や大学でも同じことが行われています.共同研究の楽しさや大切さを再認識した一年でした.
 日本は,貝毒研究の分野では,最先端の研究成果を世界に送り続けてきました.そのため,日本人である私は否応無しに多くのニュージーランドの研究者から過大評価され,自分の幻影と実像,そして,それを見極める3人目の自分がニュージーランドでの私の研究の舵取りをしてきました.主体はもちろん3人目の自分でしたが,ニュージーランドの研究者たちが抱いた私の幻影に,ときには後押しされ,そして,ときには辟易しながらチャレンジし続けた一年間でした.そして,幻影と実像という2人の自分を見つめる中から,次の研究目標がはっきりと見えてきた一年でもありました.
 帰国の途に就いたとき,離陸するわれわれの飛行機に向かって,両手を振って見送りをしているコースロンの友人たちを見て,妻の目には大粒の泪が溢れていました.ニュージーランドで得た多くの友人たち,そして出会った人たちの記憶は,私たちにとって大きな財産になりました.

謝辞
 1年間の留学中,多くのご支援をいただいた海区産業研究室の山崎誠室長,一見和彦科学技術特別研究員,さらに河村知彦主任研究官をはじめとする海区水産業研究部の皆様,そして東北水研の皆様に心から感謝申し上げます.また,留学の機会を与えて下さった水産庁研究指導課の皆様,また,留学中,多大なご指導を賜りました安元健東北大学名誉教授にあらためてお礼申し上げます.

文献
Daiguji, M., Satake, M., James, K.J., Bishop, A., Mackenzie, L., Naoki,H., Yasumoto, T. (1998).
Structures of new pectenotoxin analogs, pectenotoxin-2 seco acid and 7-epi-pectenotoxin-2 seco acid, isolated from a dinoflagellate and greenshell mussels.
Chemistry letters:653-654.
Satake, M., MacKenzie, L., Yasumoto, T. (1997).
Identification of Protoceratium reticulatum as the biogenetic origin of yessotoxin.
Nat Toxins 5:164-167.
Suzuki, T. (2000).
Improvements to the HPLC analysis for yessotoxin.
Proceedings of HABTech 2000.
Yasumoto, T., Takizawa, A. (1997).
Fluorometric measurement of yessotoxins in shellfish by high-pressure liquid chromatography.
Biosci Biotechnol Biochem
61:1775-1777.

写真1 コースロン研究所にて(有毒プランクトンチームを中心に)
写真2 ウェリントンにて
(海区水産業研究部 海区産業研究室)

Toshiyuki suzuki

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