R/V Johan Hjort乗船記

栗田 豊


 ノルウェーにおける長期在外研究期間中の1998年6月30日から7月29日まで、ノルウェーの漁業調査船、R/V Johan Hjort(ヨハン・ヨルト)に乗船して浮魚の資源調査に参加した。いくつかの新鮮な発見があったので、ここに紹介したい。
1.R/V Johan Hjortの概容
 ノルウェーの水産研究所、Institute of Marine Researchには6隻の船が所属している。R/V Johan Hjortは1990年建造の船で、全長64.4m,910トンである(写真1)。トロール、計量魚探、モクネス、CTD、プランクトンネットによる調査等が行える。居室は29部屋(シャワー・トイレ付き)34ベッドで最大20人の研究者が乗船できる。研究室は3つの汎用研究室(合計75m2)、海洋観測室(CTDやプランクトンネットをここから出し入れする、20m2)、ソーティング室(30m2)、冷凍室(38m2)、コンピュータ室(17m2)、作業室(計量魚探解析、一般作業、ミーティング等に使用、100m2)がある。
2.調査内容
 航海は、浮き魚(ニシン、サバ、blue whiting(タラ科))の分布および資源量調査で、計量魚探と表中層トロールを中心とした調査であった。調査の基本的な流れは、計量魚探調査と、1日数回(総計117回)の表層または中層トロールによる魚種確認である。トロール採集物の体長、体重、年齢等のデータは、揚網後すぐに測定され、その結果を参考にして計量魚探の解析を1日1回程度のペースで行っていた。そのほかに、CTDによる海洋観測、プランクトンネットまたはモクネスによるプランクトン採集も行った。
 R/V Johan Hjortのまず目に付く特徴は、トロールウィンチが、中空に有ることである(写真2)。このため作業スペースが確保されるし、ネットを巻き上げるとコッドエンドが上から垂れ下がる状態になるので、魚を取り出すのが簡単になる。採取された魚は、トロールウィンチのすぐ隣にあるソーティング室(ウェット)でソーティング、計数、計量され、必要個体数だけ隣の解剖室(セミドライ)に持ち運ばれる。解剖室では、魚種ごとに体長、体重(以上、100個体まで)、成熟度、胃の充満度、肝臓の健康状態(以上50個体まで)等が魚体測定装置(写真3)を用いて記録され、そのデータは船内LANにより計量魚探の解析室でも利用できる。耳石や鱗は、解剖室ですぐ年齢査定される(各魚種50個体まで)。魚体測定に携わるのは2〜3人であった。ルーチンな作業であるが、それぞれの作業は非常に素早く行われ、次の投網までには生物データが取り終わっていた。魚体測定装置は本年度から導入したそうで、入力にかかる労力をセーブし、記入・入力ミスを防げる点で、二重に優れものである。ただし正しく入力されていることを随時チェックする必要はある。電子天秤は船上仕様であるが、船体の揺れに応じて±1g程度の増減があった。1網につき1魚種100個体程度の体重を測定するので、資源調査には影響のない誤差であろう.
 CTDやプランクトンネットは、右舷にある海洋観測室に格納され、部屋の扉についている滑車からつり下げる(写真4)。雨天時にも濡れることなく安全かつ楽に作業ができるし、荒天にも強いであろう。
 研究者のワッチは2班体制の6時間交代、したがって1日12時間労働である。今回の航海では、1班の人数は実質4名で、上記調査をこなしていた。魚が100個体以上獲れる網が連続すると測定作業は大変であるが、船上で全てデータを取ってしまう手際の良さには感心させられた。
3.生活空間
 乗組員用を含めて個室が29部屋有り、1部屋の床面積は4畳半程度で、すべてシャワー・トイレ付きである。朝・昼食はビュッフェ形式、夕食はノルウェー料理(ジャガイモ+スープ+一品料理)。船に乗ったおかげで、ノルウェー料理の主なものは全て経験できた。また、最下層にはサロン(TV室)があり、ちょうどサッカーのワールドカップを楽しむことが出来た。今回の乗船は、お客さんという気楽さもあったろうが、非常にリラックスできるものであった。

 ノルウェーの船は、ノルウェー人の気質、比較的単純なノルウェー海の生態系、研究の需要、経済状態など様々な条件が組み合わさって建造されているはずだから、そのような条件が異なる日本の船と単純に比較することは危険であろう。例えば個室にシャワー・トイレを完備したり、サロンに広いスペースを割くという発想は、ノルウェー(あるいは欧米)ならではである。R/V Johan Hjortは計量魚探とトロールを用いた資源調査を主目的として造られた船なのだろうから、今回の調査はまさにR/V Johan Hjortの機能を十分に生かした調査であったのだろう。当然の結果として、船内の間取りや調査内容が合理的で無駄がないと感じた。
 最後に、乗船中大変お世話になったクルーズ・リーダーのTerje Monstad博士をはじめとする調査員と乗組員の皆さんに感謝する。
(八戸支所 資源生態研究室)

写真1R/V Johan Hjort
写真2トロールウィンチ。
写真3魚体測定装置。
写真4海洋観測室内に格納されたCTD。
写真5海中にCTDを投入するところ。


Yutaka Kurita

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