ホタテ漁業の検証
陸奥湾ホタテ貝増養殖漁業の成果は、図1に示した。1965年に山本謙太郎先生(元東北大学・理・生・動物生態)はホタテ貝産卵発生後附着から2〜3ケ月後の離脱期に厳しい減耗があり、この減耗を避けるために附着の特性を利用した附着器の提案をされた。その後漁業者の考案で採苗器に古玉葱袋を被せて落下死亡する稚貝の確保を計って附着器を完成した。この成功で1969、70年に種苗生産を増大して放流数量を増加し生産量も急増し1万トン程度の生産となった。然しその反面湾内では、早くも種苗の放流が藻場へ影響し藻類の鋭敏さが分った。次の問題は、穿孔虫ポリドラが大発生し貝は痩せて商品価値を失い加工場は休業し出荷不能になった問題である。図1の種苗放流数の推移は、1970年頃の放流種苗個数が増加して地蒔き放流の50%が斃死しているが、それにも拘らず依然として種苗放流個数は増加している。大斃死の原因となった理由としては、次のような報告で餌料が不足し諸問題の原因となっているのがよく理解される。
河口域と水産
河口域は水産業には最も重要な水域であることを種々教えられた20年間であった。小川原湖は、特に、大型の典型的な塩水轄型で湖底には常に変質海水が存在して上層を流れる河川水に塩分が拡散しているので塩分分布は常に湖尻に向かって高い。湖尻のヒラメ仔・稚魚の成長は外海沿岸に比較し成長が早い(30%)が、餌料条件が整っていることは珍しい現象ではない。生物環境指標種はユスリカ科や、イサザアミ類であったが、高瀬川の浚渫で海水が逆流し湖底に入り塩分拡敵が増加し塩分が上昇して環境指標種がヤマトシジミに変わりヒラメ仔・稚魚成育場は消滅している(筆者報文参照)。
有用魚類資源の増大
ヒラメや、カレイ類ばかりでなく初期生活期に厳しい自然減耗に遭遇する有用魚類は少なくない。低コストで特性を利用しヒラメ・カレイ類のように採捕可能であれば資源増大への可能性がある。その好例はホタテ貝で初期生活期に附着する特性を利用している。
図2はイシガレイ生活史模式図で浮游末期に変態を終り底棲生活に移る時期に厳しい自然減耗に遭遇するが、この浮游末期に強い趨光性の特性を利用したトラップ網で容易に採捕出来る。図3はヒラメの生活史模式図でイシガレイの特性と類似しているし、小川原湖の調査や、調査船わかたか丸での宮古・山田湾調査等から好適成育場条件が分った。
水産生物資源ばかりでなくコントロールには対象種の生活過程の自然減耗の実態と特性を明らかにして、特に、適した成育場の生物環境の認識と共棲種とのバランスの検討が重要である。従って、放流にあたっては、ヒラメ・カレイ類では既に開発されているMarking入墨式標識法等で標識し適地成育場に放流し漁獲物中に標識魚が混獲する尾数調査結果や生物環境の検討によって放流効果を評価しなければならない。
※ | 遊佐多津雄論文集(昭和55年)No1.〜No75. |
<製本済>東北水産研究所図書室所蔵 | |
No76.〜No146.(平成11年6月現在)までの論文集作成中。 |