今後の東北水域の研究に想う

服部茂昌


 昭和22年、当時の農林省は食糧として水産資源の高度維持を図るため、行政機構による調査だけでなく、これを改革する方針が決定され、この方針にしたがい水産業調査機構改革委員会が設置され、数回の審議を経て昭和23年4月に大綱が決まり、同年5月農林大臣に答申された。この中には、水産庁の設置、八海区における国立の水産研究所の設置、水産研究審議会の創設、地方庁水産試験研究機関との提携による技術の浸透などが唱われていた。
 これに伴って、昭和23年7月1日に水産庁が設立され、調査研究部が置かれた。また、昭和24年6月1日に水産に関する調査・研究は農林省水産試験場から分離・独立した7つの海区水産研究所と国・道に分かれた北海道水産試験場の国の部分により設立された北海道区水産研究所をあわせた8つの海区水産研究所が設立され、それぞれの海区の特色にあわせた調査・研究を実施することとなった。
 実務的には農林省水産試験場宮古試験地で実施されていた底魚類の漁業・資源的研究は本所より一足早く昭和25年5月15日に八戸支所に移り開始された。
 一方、塩釜市に設立された本所は昭和25年10月15日に資源部・増殖部・利用部が設けられ業務が開始された。
 資源部ではカツオ・サンマの資源について全国的な研究企画と各海区水産研究所と協同して調査し取りまとめを行う。
 増殖部では種牡蛎のように他海区にはない調査・研究をはじめ東北沿岸域の増養殖の基礎的研究、利用部では東北海域における水産物の保蔵法・利用加工法および生物の質的調査・研究が開始された。
 昭和30年代に入り、社会の要請なども含めて漁業形態の変化があり、それに伴って試験研究機関のあり方について広く討論され、昭和38年10月には省議で「水産研究所の機構整備について」の方針が決定され、それに沿った機構整備が行われ、昭和42年の遠洋水産研究所の開設で一応の落着をみた。この間に東北区水産研究所では、昭和37年に利用部が廃止(東海水研への集中化)され、海洋部が新設された。
 その後、昭和52年の200カイリ経済水域の設定および平成6年の国連海洋法条約に基づく漁獲可能量(TAC)制度の導入など、近年の水産業をめぐる情勢の変化は著しく目まぐるしい。このような情勢の変化に的確に対応して、将来にわたる水産業の発展および水産物の安定的供給の確保など、今後にむけた新たな展開に対応した水産研究の推進が求められる。これらに対応するため、平成10年10月に水産研究所の組織の全面的な見直しが行われたと聞いている。水産分野における試験研究は将来にわたって増養殖を含み水産資源の合理的な利用を図り、また、漁業・養殖業を魅力的な産業として展開していくために不可欠なものと考えられる。
 近年とくに環境や生態系を考慮した漁業・養殖業に対する技術開発、養殖分野におけるバイオテクノロジーの活用などが推進されており、これらの発展には産・官・学の有機的な連携の下に開発された技術の普及に務めることも重要である。
 東北海域は暖・寒両流に挟まれ、世界有数の好漁場を形成しており、近年の漁業をめぐる諸々の困難な条件のもとでも漁業生産量は国内水産物供給量の1/4を占めており、多獲性魚類はもちろん、中・高級魚介類の供給基地としての地位を依然として保持しており、食糧自給と日本型食生活の維持に一層の期待がかけられている。さらに、これらを維持していくための漁業・養殖業の経営の安定を保つためには、資源の適正利用、漁獲効率の向上、需給の均衡化など生産構造の整備を図ることも重要な問題となる。
 沿岸漁業や浅海養殖業は、主として中・高級魚介類を対象とした蛋白質の供給源と同時に豊かな食生活を維持・発展させるために重要な役割を担っているが、これらの生産基盤は現在でも貧弱であり、資源状態およびそれらを適切に利用するための条件を明らかにすることが急務であるといえよう。
 漁業を近代的な産業として将来にわたって発展させていくためには、対象となる生物の生態および資源の動向を正しく認識することが前提であることはいうまでもない。そのためには、これらの生物生産の法則性を明らかにし、それを活用して経済活動を通して持続的なしかも安定した漁業生産をあげるための理論や技術を創出して、漁業の維持・発展に資することを願っている。
 200カイリ体制が国際的に定着してかなりの時間がたったが、我が国周辺の資源を如何に管理し、有効に利用していくかが問われており、いわゆる資源管理型漁業をめざした有効な管理モデルの早急な開発が待たれる。
 とくに、東北海域には主要浮魚類の再生産海域はみられず、この海域は稚魚以降の発育・成長にとって重要な海域であり、成長に伴って当歳魚以降の生活領域としての依存度は極めて高い。したがって、これらの魚種の生態を明らかにし生残量の数量変動機構の解明が東北区水産研究所に求められている最も基本的な課題であると考えられる。
(元 所長)

Shigemasa Hattori

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