表紙写真の説明

田邉智唯


 写真はカツオの耳石(扁平石)を光学顕微鏡により観察したものである。それぞれの体長は、小さいものから順に6.3mm(×400)、14.9mm(×200)、29.8mm(×200)である。筆者らはカツオの初期生活史における成長の解明を目的として、昨年度より仔稚魚の耳石輪紋観察を行っている。カツオの扁平石は、仔魚期にはほぼ円形で、摘出・乾燥後マニキュア包埋するだけで輪紋観察が可能である。稚魚期になると楕円形の複雑な形状を呈するようになり厚みを増すが、扁平面を研磨することにより輪紋観察を行うことができる。カツオは他魚種に比べて耳石の輪紋観察が難しいと考えられており、筆者らは体長の小さい個体から観察をはじめ、試行錯誤を繰り返してようやく輪紋が計測できるようになった。写真の扁平石はいずれも処理を施して輪紋観察が可能となった状態であり、これらは市販の耳石輪紋解析装置を用いて輪紋数や耳石半径等を計測する。これまでに体長3.4mmの仔魚から57.5mmの稚魚までの扁平石について計測を行い、それらのデータを解析することにより、この間の成長の解明を試みた。その結果、カツオの仔魚期から稚魚期における成長はきわめて速く、ふ化後1ヶ月での体長は60mmを越えるものと考えられた。
 カツオは高度回遊成魚種の一つとして知られており、熱帯域から温帯域の間を季節的に大移動する。日本近海では春先に南岸域に来遊し、索餌しながら北上を続け秋になると南の海へと帰っていく。このようなダイナミックな生活史を送るカツオにおいて、生態の謎を解く鍵の一つが初期生活史における成長の解明ではないかと思われる。
(資源管理部 浮魚資源第二研究室)

Toshiyuki Tanabe

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る