エゾアワビ資源管理の考え方

關 哲夫 1),佐野 稔 2)


 日本のアワビ類の最近の年間漁獲量は3,000トン以下に低減している.一方では,年間3,000万個体を越えるアワビ種苗が各地の漁場に移殖・放流され,資源の増殖を目標とした事業が継続されている.しかし,人工種苗の放流事業は全体の漁獲量を増加させることがない状況にある.最近の研究により海藻の生態学的研究が進展し,エゾアワビの増殖は海藻を含めた岩礁域生態系を管理する技術としてとらえ直されなければならないことが指摘されている.今後の進展に向け,これまでのアワビ増殖事業の生態学的側面を考察し,資源管理の考え方について提言した.
 これまでの人工種苗の移殖・放流では,天然で発生した稚貝の分布域や減耗過程に基づいて数量や放流地点が決定されることはなかった.今後は,アワビが棲息したことのない海底や,アワビが摂食できない海藻群落に移殖することを避けるべきことを指摘した.今後のアワビ資源管理には次の点が重要である.
(1) 天然資源の分布していない海域にアワビを移殖する放流事業は,一定の放流効果実績を上げる段階に達している.しかし,これまでの実施例では天然個体群の棲息海域に人工種苗の移殖が行われており,天然個体群との関係が不明確である.この手法は,再生産が期待できない海域や,新たに造成した漁場で実施され効果を上げることに向かうべきである.
(2) 天然資源の棲息域では,天然の再生産に添加できる産卵量をもたらす母貝集団を形成することを目標にして種苗を移殖することの有効性を検討すべきである.
(3) 資源の回復のためには,海藻群落の広がりを基礎とした漁場の類型化が必要である.この類型化によって,資源の現存量も正確に把握でき,種苗の発育段階にふさわしい海域が明らかとなる.
(4) 天然資源の減少を来してしまった漁場に資源を回復させるためには,外部からの資源添加である.幼生の移殖や,親の移殖は経済的に無理があるので,人工種苗を用いることが合理的である.
(5) 加入の増加量と漁獲水準の適正な管理が必要である.
1)資源増殖部 藻類増殖研究室,
2)東北大農

kiren@myg.affrc.go.jp

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