漁業とツーリズム

月舘潤一


 漁業はこのところ良くない,魚が獲れない,従って加工素材がないという。しかし,スーパー等では必ずしも魚が減っているようには見えない。
 平成8年度の漁業白書によると,総供給量は前年より増加して,1,348万トンとなっている。そして,この数字に過去10数年間,大きな変化はない。つまり,国内生産が減った分,輸入量でカバーしてきたことになる。この輸入量は総供給量でみれば,平成7年度に初めて国内生産量を上回った。
 国内生産が減っても輸入量でカバーできれば,それで良いか。経済がグローバル化しているなか,水産の将来を日本の国内事情だけでは考えられないという意見を聞く。しかし,私は,輸入は全くダメとは云わないが,水産物はできるだけ国内生産で賄いたいと思う。これには食料安保の意味合いもあるが,数千年の歴史により創られた漁村文化や漁業集落を維持して,食料産業である漁業を守りたいからである。
 漁業は,沖合域や公海域では,資源量の把握に基づいて,国際間の取り決めにより行われている。この場合,正確な資源量の算出が基本となり,これに基づく漁獲計画は重要になってくる。そして,これらの取り決めに基づいて,漁業をし,違反操業のないよう自ら律するのが,長い目で見れば漁業を計画的に持続的に行っていくことになる。
 沿岸域では,定置や刺し網,アワビやウニ漁等の漁業が行われ,マダイやクルマエビ等の魚介類,ホタテやカキなどの二枚貝,ワカメやノリ等の海藻類の養殖が行われ,その他,東北沿岸ではホヤ等の養殖も行われている。これらの漁業や養殖業は,年間を通して生産計画がたてられ,営まれている。このように,昔から生態系を攪乱しないよう,海の生産力を調べながら,末永く続けられてきた。これらの漁業生産は海の生態系を壊さない範囲で続けるなら,将来とも成り立つ。三陸沿岸では,健全な経営が行われている漁家も多く,こういう所では後継者もいるという。
 漁業を将来にわたって守って行くには,今後,消費者とのより多面的な交流のなかから,生産や供給の方法を考えていかなければならない。インターネットを利用し,双方向から情報をやりとりし,さらに計画的に生産を行っていく方法が模索される。このようにして生活に余裕ができれば,何千年の歴史に彩られた漁村文化が維持され,漁村集落が強固なものとなろう。このことが,また,漁業生産の活性化につながる。
 最近,グリーンツーリズムという言葉をよく耳にする。これは都会住民が農家などに泊まり込み,農作業などを手伝いながら,数千年の農耕文化を体験して,自然景観の中で生活をすることのようだ。水産ではブルーツーリズムと云うようで,漁村に滞在して,漁業の営みを体験し,海,海辺で生活する事らしい。このような体験は都市住民にとって,自然へのあこがれ,欲求の充足やストレスの解消となり,さらには人生,生活について,アレコレ考える機会を与えてくれるという。私は,このようなツーリズムなど都市住民との交流により,漁業の現場を広く知ってもらうのは,大変有意義なことと思う。
 都市住民と農漁村の住民が交流する機会は,この他に,昔から産直や朝市などがあり,最近は,漁業を体験し,獲った魚介類をその場で食味したりする観光漁業もある。産直は,いろいろな港と消費者との間で,漁業者と消費者との間で広く行われている。インターネットが普及している昨今,産直はもっと手軽に,もっと幅広く行われることを期待したい。消費者は新鮮で,美味しくて,安全なものを食べたいと願っている。各地で行われている朝市もどんどん普及したら良いと思う。山口県では農産物の朝市にイベントを組み合わせてお祭りにし,ツアーを組んでお客さんを集めているという。魚介類の朝市でも,例えば,岩手県や宮城県の港町と山間地の温泉とが手を結び,一泊二日程度のツアーが組めそうだ。 漁業振興を考えるとき,勿論,条件不利地対策とか漁村生活条件の整備等が不可欠であるが,このような生産地と消費地間のいろいろな交流は,漁業生産に携わる者の姿勢(意識)に大きな影響を及ぼすと思われるし,今後は,生産者だけでなく,消費者を含めた地域住民が一体となった生活者の視点は,ますます重要となろう。
 ツーリズムにみられるように,都市住民と漁村とが交流を通して,漁村を維持し,漁村文化を継承するなかから,漁業を活性化していきたい。そして私は,漁業関係者の意識や漁村集落のオキテ等が,時代とともに変わって,漁村内部に資本や情報のみならず,外部から人材を入れることは,漁業の発展にとって,大変重要であると考えている。
(所長)

Jun-ichi Tsukidate

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