暖水塊の移動特性

−1981年〜1996年7月の観測結果から−

稲掛伝三


 1981年〜1996年7月の15年7ヶ月間に、水産庁・気象庁・水路部・防衛庁ほか関係各機関が観測し、東北区水産研究所海洋環境部に報告された海洋観測結果を基に作成した各月の海況の模式図、東北海区漁場海況概報、100m・200m深水温図から、2ヶ月以上連続して観測された暖水塊(計37個)の中心位置を緯経度10分単位で読みとり、暖水塊の移動特性を整理した。
 暖水塊の移動特性や海底地形、親潮の分布範囲などから判断して、東北沖合域、東北近海域、道東近海域の3つの海域に区分し、それぞれの海域での暖水塊の移動特性を求めた。
 暖水塊にとって沖合域は145゚E(日本海溝と北太平洋海盆の境界線付近)より東側の海域であると判断され、145゚E以東の東北沖合域にある暖水塊はほとんど西進し(移動速度は概ね西向きで20〜30海里/月)、145゚E以西の東北近海域の暖水塊は143〜145゚Eの海域内に存在した。
 東北近海域に存在した暖水塊の東西方向の移動特性には、明確な季節変動特性は認められないものの、3月〜6月には東へ向かう移動速度が大きい暖水塊が出現し、7月〜11月には西へ向かう移動速度が大きい暖水塊が出現した。南北方向の移動特性としては、1月〜3月に南下し、4月〜12月に北上する傾向があり、特に、夏もしくは秋以降に北上傾向の強まりが認められた。暖水塊および親潮第1分枝の移動特性が顕著な1月〜4月および10月〜12月について、東北近海域の暖水塊の南北移動と、親潮第1分枝の先端緯度の南北移動との相関関係をみると、1%の有意水準で有意な正の相関関係が得られた。このため、親潮分枝の南下の強まりに応じて暖水塊が南下し、親潮分枝が後退し、暖水塊の北上を阻止するものがなくなった際に、暖水塊が北上していくものと推定された。
 東北近海域と道東近海域の境界は40゚30'N付近にあり、それより北の暖水塊、特に親潮水域内の暖水塊は概ね北東方向へ移動した。道東近海域の中でも、親潮前線より混合水域側にある暖水塊は、東北近海域と同様、親潮第1分枝が南下する時期に南もしくは東へ、第1分枝が北退する時期に北もしくは西へ移動する傾向があった。
(業績番号:554A)
参考資料
図1 1981年〜1996年7月に観測された暖水塊の中心位置と海底地形.
図2 暖水塊の移動特性の模式図

海洋環境部 海洋動態研究室長

Denzou Inagake

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