若鷹丸のIBS(統合管制室)と船内LAN

山脇信博


1.IBS(Integrated Bridge System:統合管制室)

 本船の船橋は統合管制室と呼ばれ、従来の船舶が有する操船機能、航路計画機能、無線通信機能等の諸機能に、機関監視制御、漁撈・観測ウインチの制御機能を追加配置させた、省力型高度機能集約船橋である。
 統合管制室(別図1参照)は、室内の壁を完全に取り払い四周視界を確保した上で、その機能別に5つの区画に分割配置されている。すなわち、船首側に航海・操船コンソール、中央右舷側に海図・観測区画、中央左舷側に無線区画、右舷船尾側にウインチ操作区画、そして左舷船尾側には機関制御区画が整然と配置されている。また、操船、調査観測時に必要な外部視界を十分確保できるよう窓ガラスを大きくしたことにより、船橋の外観は、本船独特の形状となり、他に類を見ないものである。
 本稿では特に統合管制室の航海・操船区画、海図区画、ウインチ操作区画、観測区画について紹介する。
(1)航海・操船区画
 航海・操船区画は、統合管制室前面壁に密着させた2つのコンソールと航海機器から構成されている。中央には操舵スタンド゙、右舷側には操船コンソール(コンビネータハンドル、スラスター制御盤、システム操船装置、主機回転計等)及びレーダ(X,Sバンド兼用)、左舷側には航海コンソール(VHF、船内指令装置管制器、船上通信装置等)、Xバンドレーダ及びトータルナビゲータ(航海情報表示装置)が配置されている。同区画には3台のパイロットチェアーが配置され、甲板部当直者3名が常時座って当直できるようになっている。もちろん着座したままでの四周視界は確保されている。
 トータルナビゲータは、航海計画は元より、航路計画に基づく自動航行、次世代の電子海図(ECDIS:Electric Chart Displey and Information System)が内蔵され、海上保安庁水路部から電子海図が発行され次第入力できるようになっており、少人数稼働船としての安全航行に寄与している。トータルナビゲーターにより作成した目的地を船内LANに出力させることにより、事務室に設置されているTV共視聴装置を介して、全居室のテレビにて本船の行動予定、目的地到着情報等が随時確認できるようにされている。
 ここでシステム操船装置について少々触れておきたい。本船に装備されているシステム操船装置はCPP、バウスラスター及び最大舵角70度の舵(ロータリーベーン方式シリングラダー)によっての機能を有するものである。システム操船装置は操船コンソールの他、両ウイング、ウインチ操作区画で操作可能であり、少人数での出入港、調査、観測作業に寄与している。
(2)海図区画
 海図区画にはGPS航法装置、ロランC航法装置、海図台、GPSブイ送受信機が配置されている。海図台の隣はログスペースであるが、そこには船内LAN及び通路を隔てて統合管制室中央階段の右舷側には自動気象観測装置及びマイクロ波波高計が設置され、船内のあらゆる情報が一目瞭然に分かるところでもある。
(3)観測区画
 観測区画には計量魚探モニター及び制御部、海底地形探索装置、自動曳網漁法用表示装置、高出力魚群探知機、気象衛星受画解析装置(ひまわり、NOAA:APT)、深海用精密音響測深機、有線式ネットレコーダ表示部が整然と配置されており、後述することであるがウインチ操作区画に隣接しているため、調査、観測作業中に必要な情報がすべて得られる配置となっている。
 ここで自動曳網漁法用表示装置について説明しておきたい。本装置は、曳網漁具(操船を含む)の制御装置であり、本船に装備された漁撈調査用機器・装置/操船/航法装置等からの情報を入力し、葉室親正博士が開発された理論に基づいてコンピュータ演算処理を行い、最適な曳網調査方法の指示、記録、解析、CRT画像表示を行うものである。
(4)ウインチ操作区画
 この区画ではトロール用ネットウインチ、ワープウインチ制御、CTDウインチ、モックネスネットウインチ、8,000m観測用ウインチの制御が行える。
 この区画から船尾甲板のほとんどのウインチを操作できるように配置された理由は、本船の行動海域が気象、海象条件の厳しい三陸沖を中心とする東北海域で、特に冬季に長時間のウインチ機側操作等の外部作業を極力減少させることと、少人数で観測作業を行うために考慮されたものである。
 また、CTD/モクネスネット/8,000mの3台の観測ウインチの制御を、1台のウインチコンソールで切り換えて操作できるようにされているため、遠隔操作盤は切換スイッチと操作レバー1つという単純な配置になっている。ここも着座してウインチの操作が出来るように、船尾側に大型の窓を配置して視界を確保し、ウインチ操作者の死角になるところには、4台の作業甲板監視テレビカメラを配置して作業の安全性を確認しながら操作できるように配慮されている。
 さらに、前述の通り観測区画と隣接しているため、常時調査に必要な情報と同区画に設置されたレーダーモニター情報を得ながら調査、観測が出来ることも少人数での運航と調査業務を安全かつ容易にできるよう考慮されています。

2 船内LAN(Local Area Network)

 航海情報(位置、針路、船速等)、機関情報(運転モード、軸回転数等)、調査/観測(調査データ等/ウインチ種別、線速、線長、張力等)及び気象データ(気象諸要素、水温観測データ、波高計データ等)は、船内LANシステムにより船内に配置されたパソコンやタッチパネルのある場所において、必要に応じてすぐ表示させることができるようになっている。収集された航海、機関、調査/観測及び気象データはそれぞれサーバー及びホストに最大100日分保存可能となっており、長期航海にも十分対応できるものとなっている。
 また、将来インマルサットMによるデータ通信が可能になった場合の対応も準備されています。その中には、コンテナラボからU.S.A.のSea Space社に衛星通信により直接アクセスし、本船のHRPTのソフトのチェックやデータの送受信もできるように準備されています。

(1)構成
 本船のLANシステムは以下のサブシステムにより構成されています。また構成図を図2に示す。
 1)船内データ通信システム
  船内情報指示装置、データ収集記録装置、端末表示装置、調査データ処理システム、各調査観測機器が接続され、船内の総合ネットワークとなるものです。
 2)データ収集記録装置
  船内データ通信システム経由または直接関係機器からデータを集め、処理して船内データ通信システム経由でデータを各端末表示装置に供給する。また、各端末表示装置の要求により必要データを供給する。
 3)端末表示装置
 データ収集記録装置及び調査データシステムで収集されたデータを表示する装置です。端末は本船の士官室、調査員室及び公室に配置されている。さらにテレビ共視聴装置を介して航海情報の一般画面を2画面放映し、全居室においてもこれらの情報が得られるシステムとなっています。その画面の選択は事務室で行えるようになっており、必要に応じて切り替えていく。
(2)船内LANに接続できる調査機器
 船内LANにデータを転送できる機器は下記のとおりですが、それぞれの機器を個別のハードディスクに取り込むこともできます。船内LANに転送されたデータは、各測器のデータのバックアップと考えてください。
 CTD、オクトパス、モックネスネット、XBT、表層環境モニタリングシステム、ADCP、オートアナライザー、質量分析計
(3)観測野帳について
 本船には、今回調査船としては初めて観測野帳を統合管制室の端末パソコンに組み込みました。
 これは従来手書きで記録していた観測点における日時、位置、気象、観測項目等を、調査/観測に応じて船内LANにて収集された諸情報の中から必要な情報を、予め定められた項目をマウスでクリックすることにより一枚(若しくは複数枚)の野帳とし、記録、印字するものであります。
 これも少人数稼働調査船としての省力化、ハイテク化の特徴となるものですが、これらにより従来の紙の無駄をなくし、調査データとともにこの観測野帳データを調査航海毎に研究者がフロッピーディスクに記録して持ち帰ることができるように配慮されたものです。
 このソフトは三井造船にて艤装中に急遽思いついて考えたもので、まだ完全なものとは考えてはいない。今後乗船される調査員諸兄の意見、感想を織り込んで、使い勝手のよい形や内容のものに改善して、将来全ての調査船に共通のソフトになれば素晴らしいデータベースになるものと考えている。
(4)船内LANの利点について
 調査船に調査機器等を積み込む上で、従来は各測器に1台の割合でパソコン及びプリンターが整然と並べられていた。そこで本船は限られたスペースを有効に利用するために兼用できるものは兼用するという姿勢をとってきた。本船では、居室端末からのプリントアウトは事務室。統合管制室の自動曳網漁法用表示装置、船内LANの記録データ印字(観測野帳は専用とした。)を1台のプリンターで兼用し、ドライ研究室のモックネス、CTD、CTDオクトパスシステム(ウインチはCTDウインチ、モックネスネット用ウインチの2台)を1台のパソコンにて処理する等の方法が採用されている。
 また、新しい測器を導入しようとする場合、船内LANに接続することにより対応できるようになっている。近年目まぐるしく発達する測器にも十分対応でき、21世紀に入っても通用するLANシステムであるといえよう。
 さらに、船内LANの有効利用は、船内スペースを有効に利用するシステムともいえる。即ち、本船には、コンテナラボ(1台)を搭載利用できることと、調査に必要な調査機材を搭載できる場所が限られてはいるものの、船内LANと接続することにより、膨大な量のデータをコンパクトに保管でき、狭い船内を有効に利用することができるからである。

(若鷹丸 二等航海士)

Nobuhiro Yamawaki

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