八戸港における水温と塩分について

黒田一紀


1.はじめに

 八戸支所では、研究職員の発意によって1954年6月5日から八戸支所の前浜における海水の温度と比重及び構内の百葉箱内の測器による気象要素の観測を自主的に開始した。1963年12月30日までは5日毎の観測であったが、1964年1月1日から毎日観測を実施して現在に至っている。この切換の際に、当時八戸測候所が1936年から観測していた水温観測を1963年12月末で中止したことに関連があったらしい(山口,1989)。
 観測結果と観測の概要については、東北水研八戸支所(1991)が貴重な資料として既に発表している。ここでは、測定要素のうちの水温と比重(塩分換算)を用いて、その変動の実態と特徴を明らかにする。これについては、1995年11月30日に開催された八戸港海事官公署連絡会において一部を話題提供した。

2.観測方法

 八戸支所の前浜において毎日9〜10時に採水し、水温は0.1℃目盛りの棒状温度計を、現場比重は0.5℃目盛りの赤沼式比重計を用いて測定した。

3.主要な結果

 観測している要素のうち、水温と塩分(現場比重から換算)については1964〜1993年における30年平均値を算出した。

(1)水温の経年変動の特徴

  1.  年平均水温の30年平均値は12.1℃で、水温は概ね1970年代に正偏差、1980年代に負偏差で経過し、1990年代には正偏差の高水温化傾向が顕著であった。
  2.  1964年以降における暖水年(上位3年)は1990、1973、1994年で、逆に冷水年(上位3年)は1984、1988、1986年であった。
  3.  月平均水温の最高値の30年平均値は20.7℃で、範囲は23.9〜18.0℃であった。
  4.  夏季の冷水年(上位3年)は1988、1980、1993年であり、総じて1978、1984〜85、90年を除く1976〜1993年には夏季の低水温化傾向が顕著であった。一方、夏季の暖水年(上位3年)は1970、1973、1978年であり、総じて1970〜78年と1984・85、1990、1994・95年の夏季における高水温の出現が目立った。
  5.  最高水温月が出現する頻度は8月に75%、9月に25%であり、8月が最も多かった。
  6.  水温に影響する要因として、ヤマセ(夏季の北東風)や北西季節風(冬季)などの気象(主に気温と風)、及び津軽暖流と親潮の消長などが考えられる。
  7.  月平均水温の最低値の30年平均値は5.3℃で、範囲は6.9〜4.1℃であった。
  8.  冬季の暖水傾向は1972・73年、1979〜1984年と1990〜1995年に顕著であり、冬季の暖水年(上位3年)は1990、1991、1995年であった。
  9.  冬季の冷水傾向は1964〜71年と1977年、1985〜89年にみられ、冬季の冷水年(上位3年)は1977、1985、1970、1989年であった。
  10.  最低水温月が出現する頻度は、1月に9.4%、2月に65.6%、3月に25%であり、2月に最も多かった。
  11.  八戸港における水温の年較差(最高水温と最低水温の差)の30年平均値は19.2℃で、範囲は15.3〜 22.9℃であった。測定した最高水温は25.8℃+(1970年8月26日)で、最低水温は2.0℃(1969年2月24・25日と1984年3月1日)であった。

(2)水温と塩分の年内変動の特徴
  1.  旬平均水温の30年平均値によると、年内の最低水温は2月下旬(5.2℃)に生じ、逆に最高水温は8月下旬(21.0℃)に出現する。
  2.  最低水温を記録した2月下旬の出現頻度は31.4%で最も多く、年間の最低水温期は2月下旬をピークとして1月下旬〜3月中旬にあり、6℃以下となる。
  3.  最高水温を記録した8月下旬の出現頻度は36.4%で最も多く、年間の最高水温期は8月下旬をピークとする8月中旬〜9月上旬にあり、20℃以上となる。
  4.  水温と気温の差は春〜夏季に小さく、冬季に大きい。両者のピーク出現のずれは冬季には約3旬、夏季には約2旬である。すなわち、9〜3月には大気は海水の冷却作用をしている。
  5.  旬平均塩分の平均値(17〜19年間)は1月下旬に最高(32.99‰)、4月中旬に最低(29.16‰)となり、7〜9月には梅雨と秋霜の影響によって9月中旬に第二の極小(29.98‰)を示す。
  6.  年間の最高塩分期は1月下旬をピークとする2月下旬まで、一方最低塩分期は雪解け水の影響によって4月中旬をピークとする4月に出現する。
  7.  冬季における塩分の極大は12〜3月における降水の少ないこと及び海水の表層混合によって生じる。 一方、4月の極小は降水量ではなく雪解け水によって、また、9月の第2の極小は8月中旬〜9月上旬に年間で最も降水量の多いために生じると考えられる。

4.成果の利活用

 このような定置水温のデータはその他の機関で実施されている沿岸の観測点を含めて点をつないで線としてデータ化し、沿岸環境の監視や水産資源の長期変動との対応に役立っている。
 八戸港の水温は現在、八戸測候所、海上自衛隊、青森県水産試験場などに定期的にデータの提供をしており、気象協会、市消防署、大学、市民などからデータの照会や依頼がある。気象協会では毎年発行する「潮汐・天象・気象表」に水温データを載せている。また、青森県水産試験場はウオダス(漁海況速報)に沿岸水温の実況として掲載している。消防署では海における人命救助に利用している。また、海上自衛隊でも海上における人命救助やヘリコプターの着水訓練の情報として使っている。
 問題点としては、この種の沿岸観測は近年の自動測器の開発によって、人による観測から自動観測になっているのがすう勢であり、水温以外の要素を含む自動観測の設置が待望される。

(八戸支所長)

参考資料

東北区水産研究所八戸支所(1991)
鮫角定置水温及び気象等観測結果表(第1号).
昭和29年〜平成2年,P.184.
山口ひろ常(1989)
八戸支所と鮫角定置水温.東北水研ニュース,
(37),13−16.
Kazuki Kuroda

前ページへ