表紙写真の説明

山田秀秋


 潜水服に身を包み水中カメラを抱えた私の頭の上にヒラメが降ってきた。岩手県南部栽培漁業センターが手塩にかけた全長6cmから12cmのヒラメ3万5千尾が、岩手県大野湾で船上から放流され一目散に海底目指して潜ろうとするところを捉えた写真である。
 放流の前日に全てのヒラメの耳石にALC(アリザリン・コンプレキソン)標識が施され、ALC標識の径を用いて魚市場に水揚げされたヒラメの放流時のサイズがわかるような仕組みになっており、何センチで放流したヒラメが最も効率よく生き残って漁獲に加入するかを調べることができる。ヒラメの放流量は全国的に年々増大しているが、漁獲量はかならずしも増えていない。ヒラメの増殖を図るには、海域の環境特性に合わせた増殖事業を設計し、自然の生産力を有効に利用する必要がある。
 このような技術開発の基礎として、これまでにもましてヒラメを取りまく生態系全体を視野に入れた研究が要求されている。私達はこの大野湾において、ヒラメ種苗の捕食者の全体像をほぼ明らかにするとともに、ヒラメが幼稚魚期に専食するアミ類の生産速度を推定するため、フィールド調査と飼育実験によりその生物的パラメーターの測定を行っている。ヒラメに対する環境収容力を推定するとともにヒラメの生息に適した環境造りにも役に立ちたいと考えている。尚、写真では白化個体が若干目につくが、種苗生産技術の進歩は急速で、2年後の平成4年には正常個体の割合が90%に達した。

(資源増殖部魚介類増殖研究室)

taihei@myg.affrc.go.jp(Hideaki Yamada)

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