河井 智康



 東北海域の漁業の特徴は何かと思って調べてみた。日本全国と較べてみると、1988年漁業従事者数は15.9%であるが漁業生産量は18.5%を占める。生産性は高い。ところが生産金額でみると全国の15.1%に過ぎない。つまり労多くして益少なし、というのがトータルとしてのイメージである。塩釜漁港にしても石巻にしても、何となく暗くて貧乏じみてみえるのはそのためか。サンマ、サバ、イワシなどプランクトンフィーダーのメッカといわれるこの東北の海は未だに大漁貧乏の十字架を背負わされているのか。
 中央水研の漁業管理研究室(経営経済部)にいて、資源管理型漁業のお先棒をかついできた私にとって、これは見逃しにするわけにはいかない。かねてから、管理職になっても研究活動は続けたいと思っていたので、私の研究テーマを考えてみた。題して
 「東北海域における資源管理型漁業の構造」
という。いささか風呂敷は大きいが、本人は大真面目である。
 ところが5月に東京で管理者研修を受けた時、講師曰く「管理職になったら研究はせずマネージメントに徹する、それが有能な管理職への道だ」というのだ。二兎を追う者は一兎をも得ずの例だ。しかし私の生来の生き方は、二兎どころか、三兎でも四兎でも同時に追ってしまうのだ。つまり気が多いのだと思う。そして、かなり異質のことでも、こちらで得た知識や知恵は必ずあちらでも役に立つ、人間の可能性は多面的である、というのが私の人生哲学でもある。
 実際、私の身辺のあわただしさは自分でも感心する位だ。研究活動でも参加学会5つというのは少なくないと思うし、その他いくつかの研究会に入っている。しそして労働運動こそできなくなったが、科学者運動、平和運動、政治運動、政策運動など、いわゆる社会運動にもかなりはまりこんでいる。その間に本の出版にも手を出し、私の手がけた本は10冊を越えた。遊びも嫌いではない。すべてたしなみ程度だが、碁・将棋・麻雀・ダンス・ビリヤード・カラオケ、ついでに言えば琴・三絃・七宝焼きなどもカジった事がある。もう手を引いたのはスポーツ位だろう。そして私の人生の中でこれらが競合するのではなく、助け合い、相乗効果をもたらしているような気がしてならない。
 そんな私が、東北水研に来てもっと前にやっておけばよかったと思ったことがひとつある。それは車の運転だ。東京にばかりいたせいだろうが、今まで実感として必要がなかった。こちらに来ては大違いである。外に昼食に出るのも大変だ。私の人生哲学に従えば、車の運転もまた私にとってプラスの筈である。
 だが、少し気になることもある。仙台に住んでみて思ったのは、「杜の都」ならぬ「車の都」であったことだ。塩釜もややその傾向がある。それに自分も迎合するのは内心忸怩たるものがある。どうしたものだろうか。
 ともあれ、このような新人を宜しくお願い致します。
資源管理部長

Tomoyasu Kawai

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