「新調査艇(表紙写真)」の紹介


 一つの学問などに進むための通路。大切な入り口。これを「門」という。
 水産増殖研究のさらなる展開に向け、新たな学問分野を拓くとの意味を込めて、昭和45年以来17年間の長きにわたり活躍してきた「海耕号」に代わる新調査艇は「海門号」と命名された。本船は特に高速が要求され、しかも常荒の三陸沿岸の航行に十分耐えうる必要から船体の軽量化、断面形状及び速力性能に影響する諸数値の選定に十分留意した設計が行なわれている。直6・200馬力ターボ・ディーゼル・エンジン2基をスタンドライブに配した全長約10.65m、全幅2.7mのFRP製ハードチャイン型の高速艇であり、総トン数4.2トン、搭載人員(乗組員2、その他4)6名、航続距離200マイル、巡航速力30ノットというスペックが示すように、高速性能の方へ大きく振られている。
 代船要求に対して「了解」の回答を得て以来、機種選定に当たって様々な条件が挙げられた。専門の運航要員を欠く当増殖部では研究員自らが操船しなければならないため、第一条件は安全性である。スポーツカーが一般車と比べ格段の安全性を持つ理から、高速性能を基本設計に盛り込んだものが探し求められた。これは単にハード面だけの問題ではなく、突然のシケから逃れ最寄りの港へ避難する時間的能力の問題でもある。三陸沿岸では4〜6月に突如として突風に見舞われ、大シケとなる。これは殆ど予測が不可能であるが、吹き出してから約30分は波浪が高くならない。従って、この間に港に避難できるかが大げさに言って生死の別れ目である。第2に、調査点へ速やかに到達できる能力である。当増殖部では、21世紀へ向けての今後10〜20年間の重点課題は生物生態の実相解明に基づいた沿岸域の高度利用技術開発にあると考えており、その手法として潜水調査が最も有効なものであることを知っている。従って、船上での分析よりも如何にして時間的ロスを少なく調査点へ到達できるかが研究進展の大きなファクターなのである。また第3に、当部で計画しているサケ・マス類のテレメトリーによる行動追跡にあたって、縦横かつ小回りの効く機動性を持った船が強く要求されてもいる。およそ以上のような条件から本船が選定された。勿論航海計器も万全が期されている。
 何か従来の調査艇の概念からかけ離れたジェット戦闘機の観がある「海門号」であるが、東北水研の今後の研究に多大な力となるはずである。
 いざ門を叩け、さらば我これを開かむ。
(増殖部 浅野)

主要設備



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