イワシの臭いと血にまみれて

伴 真俊


 着任以来早4カ月が過ぎた。八戸支所第2研究室における私の主な仕事は、マイワシの漁況予測を中心とした資源量調査である。大学時代は、生態学・生理学に携わってきたが、これらの学問では、研究者と生きた魚との関係が強い。実際に魚に触れ、飼育し、解剖するといった作業の中から何らかの知見、データを得て来た。研究テーマにしても、不明な点が明らかで一度解明された考え方は、少なくとも修正されたり否定されるまで、定まった理論として受け継がれてゆく。しかし、資源学においては、魚との直接の触れ合いよりも得られたデータ・数字とのつながりが強いような気がする。また、魚の資源量は決して一定のものではなく、せっかく苦労して出した値が翌年も通用するとは限らない。さらに、天然の魚を扱うのであるから、当然海況や餌や外敵といった様々な要素も考えに加える必要がある。そういった意味で、資源学はダイナミックな学問ではあるが、氷山の一角から全体を予測する点において、取り組み方のむずかしさを痛感し、毎日ボケーッと天井を眺めていた日々もあった。が、最近ようやく、自分なりに目的を持ってデータをまとめるコツを掴みつつあり、一日が短く感じられるようになってきた。早い時期に何かを得られたのは、先輩研究者から良きアドバイスの御陰であり、今後長い研究生活を送る上で良かったと思う。
 実生活には何かと慣れてきたが、なかなか好きになれないのがイワシの臭いである。これまでの研究生活で魚の鱗や血にまみれることは一向に苦にならなかったが、イワシは強烈なカウンターパンチを私に与えた。はいでもはいでも身体のどこかに貼り付いている鱗と洗っても洗っても落ちない魚臭には閉口させられる。イワシは決して、食べてまずい魚ではないが、鱗と血と内臓に埋もれた実験を見ると、食べる気をなくするのも事実だ。早く慣れなければ、と思う。
 もう一つ、早く身に付けなければならない事がある。社会人としての自覚である。大学での研究生活は、ほとんどが個人プレーであり、テーマもある程度自由に選べた。研究とは本来そのようなものであると思うが水産庁の一人として研究をしてゆく上では、それだけでは通用しない。自分が歯車の一つであるという自覚、その中でオリジナリティーを出さなければならない。大学生活の長かった私は、ともすれば、忘れがちな点であり、気をつけなければならない。
 これから何年続くかわからない研究生活の第一歩を八戸の地で踏み出した未熟な私であるが、一日も早く一人前の研究者になろうという思いを胸に、今日もイワシとの戦いが続く。
八戸支所第2研究室

Masatoshi Ban

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