昭和60年の東北海域の漁況(資源部関係)

渡部泰輔



 昭和60年の漁況の経過は次の通りである。

1.サンマ
 20トン未満の小型船によるサンマ漁は,8月9日よりシンシル島南東沖で好調に始まり,中旬にはウルップ島沖へ南下し,大型魚主体で漁獲された。大型船は19日より出漁し,8月下旬の漁場はエトロフ島南東沖,下旬後半には道東沿岸域の落石岬南東の顕著な潮境付近(水温20〜40℃)に形成された。9月には道東沿岸漁場はやや南西に広がり,沖合の42゜N,148°E付近とともに好漁が続いた。10月には三陸・道東と金華山東方沖合(37°40′N,146°E)で好漁を示したが,魚群の南下が早く,10月中旬には常磐の沿岸並びに沖合域,11月には常磐〜鹿島灘沿岸,金華山沖に漁場が形成された。なお,このような常磐の沖合域(144°〜148°E)に漁場が形成されたことはかつてないことである。終漁は近年になく早く11月末となった。魚体は漁期始めには大型主体で,漁期全体を通してみると,予測どおり中型主体(65%)に大(29%),小(6%)混りであった。また漁期前半の漁場形成の予測がはずれる結果となったが,これはソ連200カイリ水域内の漁期前調査が全くできなかったことが大きく響いている。サンマ北西太平洋系群の資源量はここ2〜3年低水準にあり,サンマの漁況が好調を示したのは,海況条件がサンマをとられ易い分布様式にしたこと,ソナーや揚魚ポンプの導入による漁労技術の進歩などによると考えられる。今漁期の漁獲量は25万9千トン(全サンマ調べ)で,昨年(22万4千トン)を若干上廻った。

2.カツオ
 日本近海のカツオ竿釣りは全般に低調に経過した。伊豆列島東側では3月中旬の初漁以来4月まで,3〜4キログラム(体長モード53・54センチメートル)のものが漁獲され,4月下旬に入り小型魚(1.5キログラム)の出現がみられた。5月には冷水塊の周辺を中心に広い範囲にわたり木付き群を主対象に操業された。魚体は1〜1.8キログラム(体長モード42センチメートル,45・46センチメートル)であった。6月の伊豆列島東部の冷水塊周辺漁場では,竿釣船とまき網船が共に操業し競合した。東北海域の漁場は例年よりも1旬おくれで,6月下旬後半に入り初めて形成されたが,7月には常磐近海と東北海区沖合域に分散し,8月にも三陸沿岸・沖合域で低調な漁が続いた。魚体は1キログラム前後(体長38〜42センチメートル)の小型魚主体で,ピンガツオ(0.5〜0.8キログラム)が目視された。9月には金華山〜常磐沖で小型魚(1.5〜2キログラム)主体となり,9〜10月の下りガツオの漁況は全般に低調で,11月中旬でほぼ終漁となった。東北海域の推定漁獲量は約2.5万トンで,豊漁であった昨年の漁獲量の68%減で,近年の平均(4.7万トン)をかなり下回った。
 60年の産地主要港のカツオ水揚量は,生鮮34,486トンで前年の41.6%,冷凍154,468トンで前年の84.6%であった(漁業情報サービスセンター)。

3.イカナゴ
 コウナゴ(未成魚)漁は福島県北部沿岸で3月下旬に始まり,4月に入り次第に本格的となり岩手県〜茨城県の沿岸全域に広がったが,宮城県で好漁のほかは全般に薄漁であった。青森県では5月には一時的に津軽海峡〜日本海にまで広がる好漁がみられた。
 メロード(成魚)漁は岩手県では不漁,宮城県では2月上旬頃より始まり,順調な漁獲が続いたが,4月下旬には終漁した。福島県では船曳網に底曳網が加わり(6月)操業されたが,漁模様は咋年に比べ低調であった。
 イカナゴ漁は59年には低水温のため浮上が悪く,宮城県では抄網による漁獲は著しい不漁となったが,60年にはこのような極端な現象はみられなかった。しかし,船曳網による漁期が7月までと長くなっており,また,59年から底曳網漁船がイカナゴ漁に新しく加わるなど,漁業調整上の問題が生じている。60年の宮城・福島両県の漁獲量は約4.3万トンで,昨年(6.5万トン)を下回った。

4.ツノナシオキアミ(イサダ)
 イサダ漁は三陸では昨年と同じく2月中旬,常磐では3月上旬から始まり次第に活況を呈したが,4月にはやや低調となり,昨年同様岩手・宮城両県では4月下旬に終漁した。しかし,福島県南部〜茨城県北部(大津)沿岸までの漁場では好漁で,例年になく遅い6月下旬まで漁が続いたのは異例のことであった。これはツノナシオキアミの好適水温が中層にあり,この層を狙って操業したことによると考えられる。59年には豊漁(5万3千トン)で価格が下落したが,60年には4万5千トンの好漁ながら価格が比較的安定した状態にあった。このように価格が安定していたことが,逆に長く漁を行わさせ,豊漁に導いた一因でもあると考えられる。
 ツノナシオキアミ漁は親潮第1分枝の南下接岸状態によって左右され,漁獲量は親潮の南下と正の相関が認められる(小達1983)。したがって,近年のように親潮が塩屋埼以南まで南下する年には,三陸〜常磐に帯状に漁場が形成され,豊漁になることが知られている。

(資源部長)

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