“借りてきたネコ”のご挨拶

小川嘉彦



 “いや、これはこの人の本当の姿じゃないですよ。ネコ被ってるんです。”以前からお付き合いのあったK氏はお酒の席で皆さんに私のことをそう紹介して下さいました。けれども、K氏の主張は半分正しく、半分誤っています。大人しいというのは当たっていますが、ネコを被っているというのは間違いです。ネコを被るどころか、まだ借りてきたネコそのものなのです。大人しくないはずがありません。が、借りてきたネコも居つけばそのうち本性を現わさずにはいないでしょう。東北水研はとても楽しく、居心地の良い所なので、それも時間の問題かも知れません。
 昭和16年に宇都宮で生まれた(ついでながら本籍は埼玉県です。)私はあちこちを転転とし、昭和39年(東京オリンピックの年)に学校を卒業して山口県に入りました。内海水試に1年余りいて外海水試に転じ、沖合漁場開発、漁海況、人工魚礁や沿岸の調査、公害・埋立問題、200海里卵稚仔調査、最近では“シロイカ”の調査等等、その時どきの日本海の問題もかかわりながら20年を過しましたが、今回御縁があって東北水研海洋部で仕事をさせて頂くこととなりました。最初に“借りてきたネコ”と申しましたが、20年振りの転勤でまだ心地よい緊張感に全身を包まれています。いささか歳を取りすぎてはいますが、気持ちは“ピッカピカの1年生!”なのです。
 山口県でお世話になった21年間、水試でなくては経験できない様ざまな仕事をさせて頂きましたが、私個人の意識としては水産海洋学的な立場で仕事をしてきたつもりです。ですから、出来れば今後も魚と海洋環境との関わりについて勉強していきたいと希望しています。海洋部とは申せ表の大看板は“水産”研究所なのですから、そこでの海洋研究は漁撈学あるいは増養殖学の一分科としての海洋研究ということになるでしょう。ただ漠然と、あるいは興味の赴くまま海を研究するのではなく、具体的に東北の魚を出発点とし、かつ最後には現実に対象とする魚の側から研究成果を評価するかたちで完結するような海洋研究ができたら、と言うべくは、どこかで漁業者の方がたの幸せにつながっていくような仕事をしなくては、と私なりに考えています。などと“借りてきたネコ”にしてはいささか大口をたたき過ぎてしまったでしょうか?
 ともあれ、東北の海と魚のこと、私にとってはまだまだ勉強しなければならないことばかりです。まだ西も東もよくわからない“借りてきたネコ”の状態はしばらく続きそうです。当分は皆様に御迷惑をかけることばかりかと思いますが、どうかよろしく御指導賜わりますよう、紙面をかりてお願い申し上げます。
海洋部・海洋第2研究室長

Yoshihiko Ogawa
目次へ戻る

東北区水産研究所日本語ホームページへ戻る