“東北・道東沖の暖水漁場における短期予測技術に関する研究”について

水野 恵介



 昭和59年度から3年間,農林水産技術会議の特別研究として表題の研究が開始された。
 参加機関は東北,北海道,東海の3水研と東大海洋研究所,東北大学理学部である(ただし大学は2年めから参加)。以下この研究の概要を紹介する。


 研究の目的


 一般に“魚群は潮境付近に集まる傾向がある”ことは北原,宇田などの研究によって古くからよく知られている。特に東北・道東沖では親潮・黒潮両海流やそれから発生する渦,および津軽暖流が顕著な潮境を形成し,様々な魚種の好漁場が形成される。近年の研究によって潮境が漁場形成に果たす役割は,次第に詳細に明らかになってきた。例えばマサバに関しては,道東沖において,黒潮北上分派や暖水塊などの暖水域縁辺部に形成される特質があり,マイワシの東北・道東沖への来遊時には暖水の縁辺部に沿って漁場が形成されるようである。よって東北・道東沖においては漁場形成予測のためには,暖水の動向を予測することが重要である。表題にある暖水漁場とは,以上のような意味あいである。ここで一口に暖水といってもその内容は様々である。図1に示したNOAA7号の赤外画像で黒っぼく見える暖水は極めて複雑な形状を示している。黒潮前線からは渦巻き状に暖水が西側に延び,冷水の筋と入り組んだ形状を示している。また道東の暖水塊からは“ヒゲ”のようにみえる暖水が細く延びている。また三陸・道東沿岸には不定型で小スケール(数10km)の暖水があらわれている。従来の海洋観測ではとらえられなかったこれらの微小な暖水は,現在容易に人工衛星の赤外画像で観測できるようになっている。


 また,漁場の短期的な移動と密接な関連をもつことは,最近のリモートセンシングを使った研究によって,為石,斉藤などによって明らかにされつつある。本研究の目的は東北・道東沖で漁場形成に密接に関連する暖水の発生〜消滅の過程を多数の画像と海洋観測によって調べ,変動の特性を見いだして予測の基礎を得,もって短期的な漁場予測技術を開発しようとするものである。


 研究方法


 この研究は大別して3つの柱から成っている(図2のフローチャート参照)。1つは暖水の立体構造の把握で,赤外画像と,船舶の観測から暖水の構造とその変化の過程をとらえるものである。もう1つはこの観測の知見をまとめ,モデルを構築し暖水の変動過程を水理実験などによってシミュレートして理論的に解明し暖水の消長の予測モデルを作成し漁場移動の予測の基礎を確立する。最後に予測モデルと漁場の移動の実際とを比較・検討しこのモデルの有効性の検討を行なう。
 この研究で暖水の観測には様々な手法が用いられる。小規模な 海洋構造に過ぎない暖水のみを観測してもほとんど意味がないのでその補給源となる黒潮北上分派や暖水塊および津軽暖水の動向を赤外画像と海洋観測によって把握しておく。暖水については主に赤外画像によって短期的な(タイムスケール数日程度)変動過程をとらえるとともに,1つの暖水に注目して,航空機でこれに向かい,AXBT観測を行ない,また調査船によっても水温・塩分などを測定し,暖水の立体構造を精密に把握する。また1隻の調査船では暖水の立体構造を有効に把握できないので,極めて小型・簡便なBTを多くの漁船(15隻程度)に依頼して下層水温の資料を収集する。またアルゴスブイを暖水付近に投入し,その位置を人工衛星によって刻々測定し,ラグランジェ的な流れを把握する。以上の方法によって,暖水塊や津軽暖水及び,これらから派生する微小な暖水の構造とその変化を多数例観測する。
 上記の観測から得られた知見をもとに,画像から暖水の立体構造をある程度推定できるようにする。画像から得られた各種の暖水をその構造特性から分類し,さらに種類別に暖水の移動方向や持続性を主に統計的手法によって推定できるようにする。以上の資料の解析結果から得られた暖水の変動に関する知見を理論的に検討し,発生〜消滅のメカニズムを推察し,理論的なモデルを作成し,これを水理または数値実験によって確かめる。こうしてモデルを作成した後,実際の漁場の短期的移動と,予測モデルとを比較し,その実用性を検討し,多少の修正を行なってよりよいモデルが完成すればこの研究が完遂されたことになる。


 研究体制


 本研究はかなり大がかりな観測・解析体制を必要とするものである。画像解析は多数行なわねばならないが,幸い昭和59年度から東海水研に画像解析装置が導入され,北水研のAPT(NOAA衛星からのリアルタイム自動受画装置)も活躍中なので,両者を目的に応じ有効に使用すれば大いに威力が発揮されよう。調査船の運航,飛行調査,漁船からの資料収集は主に東北・北海道水研が中心となり,海洋観測資料に関しては東北水研がデータセンター的な役割を担っている。また,漁況関係の資料は東北水研八戸支所によって収集され,データベースを作成し,また,アルゴスブイに関しては東海区水研が中心になって解析を進める。暖水の変動機構の理論的な取り扱いや水理実験は東大・東北大によって行なわれる。
 以上,本研究の大まかな構想を述べたが,これまでの共同研究は,ややもすると,水研間の資料の交換がスムーズにいかなかったり,研究上の目的意識のずれによって必ずしも共同作業が円滑に進行したとは言い難い。そこで今回は,まず各水研で互換性のある計算機をそろえて一次的な資料(衛星画像・船舶データ・漁況データなど)はフロッピーディスクなどの媒体をお互いに交換し合うことによって資料の流通を良くし,円滑な共同作業のための第一歩にしたいと考えている。

(海洋部第1研究室)

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