迷路に立って

藤井 豊



 本年4月16日付で、東海水研利用部から当水研企画連絡室に配置換えになりました。 改めて、所員各位及び東北ブロックの皆様に着任のご挨拶と今後のご指導をお願い申し上げます。
 当面の仕事は、所内と東北ブロック内の試験研究の企画、調整及び連絡が円滑に進むような 環境及びふん囲気作りに協力することと考えています。そのための第1歩として、各分野の試験研究の 現状についていろいろ勉強させていただくことは勿論ですが、同時に、公私及び昼夜を問わず、 できるだけ多くの異なる状況下で皆さんと接し、いろいろな現実の対応をみせていただきたいと 思っています。従って、そのような機会を豊富に与えていただければ幸いです。
 着任以来3カ月余りを経過し、目下のところは、大量の情報及び連絡書類への不慣れな 対応に四苦八苦している有様ですが、そのうち、効率的な取捨選択技術を修得してできるだけ 時間を捻出し、前述の仕事に振り向けてゆくつもりです。
 近年、いずれの分野の試験研究機関に対しても、新しい技術開発に対する要望が非常に 強くなっていますが、水産分野においても例外ではありません。このことは、これまで、研究の 主目標として取り上げてきた水界及び水中生物界における自然の法則性、水産動植物の生理・生態、 またはその成分組成及び性状面からみた原料特性などの解明に加えて、それらの研究成果から、 さらに産業に役立つ技術を生み出すことが期待されていることになります。
 このような状勢はすでに皆さんご承知の通りですが、水産分野の試験研究機関の現在の 組織、定員、設備、研究蓄積では、まだ十分な対応は困難で、今後いろいろな点についての論議や 検討が必要になると思われます。しかし、いずれにしても、試験研究の企画、実施が研究者自身の 手によって行われるものである以上、最も重要なことは研究者1人1人が研究を取り巻く現状を 果たしてどのように認識するか、その結果をそれぞれの研究の中にどのように取り入れてゆくか、 それに対して行政をはじめ周囲から研究を支えている組織がどこまで協力できるか、などの点に 集約されます。
 研究及び研究成果に基づく技術は単なる思いつきから生まれるのではなく、多くの研究者の 長期間に亘る毎日の努力の積み重ねの結果から生まれてくるものであり、そのような研究、技術こそが 基幹研究、基幹技術として評価されるべきものと云えます。従って、新しい技術開発を望む声に 対処するためには、当然、それだけの人員、研究期間、施設、予算の確保が必要条件になりますが、 これからの厳しい社会状勢下では、必ずしも十分な条件を調えることができず、恐らく不充分な 条件の下で最大限の成果を挙げることが望まれる筈です。このように、今後は個々の研究者の状勢 認識と研究の中への取り込み方が一層重要になり、その結果が将来の試験研究機関の社会的位置づけ 及び評価を決めるといっても過言ではないと思われます。
 社会的要望が強くなればなるほど、対応のためのいろいろの意見が生まれてきますが、 その中で研究者としての自分をどのように位置づけ、毎日の研究の積み重ねの中でどう応えてゆくか、 焦らずにゆっくり考えてゆきたいものです。幸いにして、その点では当水研は環境的にも、 地理的にも、恵まれた条件にあるような気がしています。これからも、所員の皆さんと一緒に、 われわれ研究所の歩く道を時間をかけて探してゆくつもりでいますのでご協力下さい。
 終わりに、これまでの公私に亘る皆様のご好意に心からお礼申し上げるとともに、今後の ご指導をお願い申し上げます。
前 東海区水産研究所利用部長  企画連絡室長

Yutaka Fujii

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