再び東北の海へ

小金澤昭光



 東北水研へ11月1日付で配置換えになりました。当所と東北ブロックの各位にご挨拶を 申し上げます。水研から眼下にみる松島湾は私の研究を育み、浜を教えてくれたところです。今まで 日本海区水産研究所浅海開発部の創出期の一員として、また水産庁研究課での研究と行政との パイプ役として、私自身の経験に新しい面を加えることができ、研究所を外から眺める機会にも なりました。
 その経験から、東北の水産増養殖の歩みをみると、研究分野では経常研究を大切にし、 その蓄積の中で、産業形成を意識した大型研究に発展させてきていると理解してます。例をあげれば、 アワビの種苗生産、海中造林、海中飼育放流によるサケ資源の増大をみることができます。 研究推進にあたっては水産試験場、栽培漁業センター、ときに大学を加えた活発な研究活動で、 その成果を行政部局を通して事業面で効果的に生かしている。この行事化段階で不足する知見がでると 研究面にフィードバックし、さらに進む。この様に研究と行政が車の両輪のようにたくみにかみ 合わされているという印象を強く感じられました。
 しかし、最近の東北の増養殖をめぐる状況は昭和47年頃から発現したホタテガイの 大量斃死(現在終息)、昭和52〜3年から松島湾ノリ養殖に多発するようになった壺状菌病、 昭和52年頃より顕在化するようになったホタテガイ貝毒等、養殖産業の創出期にはみられず、 量産体制に入ってから発現する事象が目につきます。これは技術体系の今後のあり方に示唆を 与えてくれる面が大きいと思います。最近の事象に対してはホタテガイの大量斃死対策を例に とると、養殖生産にかかわる技術と人間との関係が引き起こしたものとして位置づけ、克服して 来ました。かつて松島湾におけるカキの大量斃死を抑制種苗によって解決したこととあわせて 貴重な研究財産といえます。
 現在、東北の増殖分野では各県の栽培漁業センターの整備、日本栽培漁業協会宮古事業場の 発足にともない新しい栽培漁業推進の素地が着々と整備され、種苗の生産技術が向上し、 自然の生態系へ働きかける手段が確保されてきています。しかし「種苗を放流しても・・・」、 「漁獲を規制しても・・・」、「誰かがとるかもしれない・・・」という考え方が一方に存在するのも 事実です。これらの考え方に対し、確固とした展望を示す必要があります。このため増養殖生産 技術の開発と行使に際しては自然科学的側面と社会経済的側面を十二分に把握することが必要です。
 この点は素地が新しい場合だけに充分に留意すべきだと思います。
 コンブ等の餌料海藻の海中造林技術を中心にしたアワビ・ウニ計画的生産システムは旧来の 漁場行使にはみられない手法でした。また、サケの海中飼育は従来の淡水飼育中心の技術体系に対し、 河川域における稚魚の収容力の限界を克服する手段を示し、河川と海の漁業者との相互協力への道を 拓きました。これらに加うるに東北の各県水産試験場、栽培漁業センターにおいては、種苗放流、 漁場改良による積極的な環境の利用、生物分布の拡大と生産の増大、新たな漁場利用形態の創出等 重要な成果を上げてきました。沿岸漁業の生産性を高めるために、研究・行政・漁業協同組合が 生産活動の中で三位一体となって実践している姿に、東北のねばり強さを感じます。
 「さけ別枠研究」も本年度をもって終了します。54年度からは「マリーンランチング 計画」が開始されており、増殖部も研究チームとして”岩礁生態系の環境容量の拡大”に参画して います。今後、研究の進展度に応じ、また東北ブロックの諸会議を通じ、協力を要請することも あろうかと思います。この場合、先見性のある意見の交換、各専門分野の有機的連繋を強め、 専門化と総合化のアンテナを高くして、各人の担当する研究課題を位置づけ、それを発展させる 方向で厚みのある東北の増養殖技術体系の確立を図りたいと思います。
 終わりに、今日までの公私に亘る皆々様のご指導に心から感謝申し上げると共に、今後の 皆様のご支援をお願いする次第です。
前 水産庁研究部研究管理官  増殖部長

Akimitsu Koganezawa

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