昭和55年5月〜12月の東北海区近海の海況

水 野 恵 介



 5月から12月までの海況の推移を海域別に要約する。


黒潮域
 黒潮の北限は5月に144゜Eで37.5゜Nに達し北偏傾向を示した他は平年並みであった。5月には犬吠埼南東150海里付近を中心とする冷水塊が発見され,それと同一らしい冷水塊は少なくとも9月までは持続した。犬吠埼南東沖における黒潮の分岐が5月にも見られたが,これは上記冷水塊と関係があると思われた。なお8月に5年間続いた遠州灘沖の黒潮大蛇行が消滅した。消滅期には,伊豆海領東側海域で流軸変動が激しかったため,東北海区においても,犬吠埼沖で激しい流軸の変動が見られた。


混合域
 5月以降近海の北上分派の張り出しは弱かったが,8月には三陸沖の38.6゜N,144.5゜E付近を中心とする袋状暖水域または暖水塊(T10015℃)が形成された。これは9月にはほぼ分離暖水塊になったとみられ,中心水温,大きさを,ほぼ一定に保ちながら北西に移動し、12月には黒埼付近に接近した。また,5月から釧路南東41.5゜N,145.5゜E付近には暖水域(T1009℃)があり,7月以降暖水塊(T1009℃)となり少なくとも10月までは中心水温を維持しながら,12月まで持続した。沖合の北上分派は8,9月には150゜E付近を42〜43゜Nを越えて張り出した。


親潮域
 5月から親潮第1分枝およびそれに連なる冷水(T1005℃)の南への張り出しが目立つようになり,6,7月に第1,第2分枝とも発達し,釧路沖暖水塊をほぼ親潮域にとり込んだ。8月には親潮第1分枝とそれに連なる冷水が三陸〜常磐沿岸に接近した。9月以降は第2分枝が三陸沖暖水塊の沖側を迂回してその南縁をとおり常磐沖へ冷水を補給したとみられる。11月以降三陸沖暖水塊の北西への移動・接岸に伴い第1分枝の南への張り出しは阻止され,三陸沿岸は暖水におおわれ,一方常磐沖は第2分枝に連なる冷水におおわれた。


津軽暖流域
 7月以降,環流域を形成し,10月頃まで持続したが、その尻屋埼東方への張り出しは143゜E付近までであった。11月以降,南への張り出しを強め黒埼付近までの張り出しが見られた。
 以上の推移で今期特に目立った特徴は,(イ)黒潮域の冷水塊の持続(5月〜少なくも9月),(ロ)釧路沖暖水塊の全期間にわたる持続,(ハ)三陸沖暖水塊の北西への移動と接岸(8月〜12月),(ニ)親潮第1,第2分枝の強い南への張り出し(6月〜10月)、(ホ)三陸沖暖塊の接岸による親潮第1分枝の南への張り出し阻止(11月〜12月),(ヘ)常磐海域低温化傾向(8月〜11月)などがあげられる。
 最後に東北区水産研究所刊行漁場海況概報から今期の特徴を良く示している5月8月の海況図を示しておく。

(海洋第1研究室員)

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