メキシコ便り

浮 永久


 アワビが死んでいるから早く専門家を送ってほしいというメキシコ政府の要請で、国際協力事業団(JICA)を窓口とする技術協力の一環として、菊池さんと私の二人がメキシコにやってきました。アワビが死んでいるという以上のことはわからず、すべては行ってみてからだということで、あらゆる事情に対処できるよう病気の治療薬などもたづさえてきました。
 日本ではアワビの種苗生産が緒について十年余。ここバハ・カリフォルニア半島の北端、エンセナダ市にあるInstituto Nacional de Pesca(国立漁業研究所)の支所にも、それは形を変えて行われています。死んでいたのは初期の稚貝でした。ここではプラスチックのバットに稚貝を入れ海水と餌になる付着珪藻を48時間毎に交換するという初歩的な方法でやっています。付着珪藻も屋外の水槽からながしてきて入れますので、原生動物がたくさん混じっています。二人の専従職員がいて、年産5,000個ぐらいでしょうか。生長が極めて悪く、付着して1ヶ月、2mm程度でどんどん死んでいます。
 メキシコは社会主義の国で、漁場においても漁業協同組合が発達しています。バハ・カリフォルニア半島には12の漁業協同組合があり、アンチョビー、エビ、フラム、アワビ等を漁獲しています。
 バハ・カリフォルニア半島のアワビの漁獲量は、近年3,000トン前後(貝殻を除く)で推移し、潜水機の普及による乱獲によって、その生産は下降気味のようです。漁期の制限は、1973年からそれまでの冬期1〜3月の禁漁期が夏期7〜8月に改められましたが、殻長制限はまだ実施されておりません。繁殖期に船上で産卵受精させた受精卵を、ビニール袋につめて潜水夫が海にもって入り、海底で撒いてくるといった笑えぬ試みもなされているようです。
 メキシコ・シティにあるInstituto Nacional de Pescaの所長は若冠35才の日系二世のルイス・春日氏で、400人のスタッフを持ち、精力的に活躍しています。アワビの資源管理について非常に熱心で、我々も発展方策について答えを求められています。この研究所はアワビについて2つのプログラムを持っており、種苗生産と今一つ、漁獲統計部門がそれです。我々自身、バハ・カリフォルニア半島沿いに南下しながら漁場に潜り、漁場の使用方法や殻長制限等について、アドバイスするのも計画の中に組みこまれています。
 エンセナダはアメリカの国境に近く、通貨もペソとドルが入りみだれて使われていて、まぎらわしいことこの上ありません。こちらに来て半月、まだ雨が降りません。周囲のスタッフは皆よい人達ばかりで、なんだか外国にいるような気がしません。3ヶ月間の短期ではありますが、日本とメキシコ両国の親善のために微力を尽くすつもりです。
 エンセナダにて 10月2日
(増殖部魚介類研究室)

Nagahisa Uki

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