東北区水産研究所研究基本計画(H10.10新規計画策定のため廃止)

平成6年〜15年


第1章 研究推進の背景

 東北海区の海面漁業・養殖業生産は、遠洋・沖合漁業による他海域での生産を含んではいるが、全国生産量977万トンの24%に当たる233万トン(漁業207万トン、養殖業26万トン)、全国生産金額25,513億円の15%に当たる3,787億円(漁業3,181億円、養殖業606億円)をあげている(平成3年)。全国との比較で最大の特徴は、生産量として約4分の1をあげているものの、金額としては15%しかあげていないことである。これは、生産金額を生産量で割って魚価平均単価を試算してみると、全国の261円/kgに対し、162円/kgという安価な魚類を生産しているためである。この特徴は、多獲性魚の多い沖合漁業で比較すると一層顕著になる。すなわち、東北海区の漁業は多獲性魚の生産に依拠しており、旧来の大漁貧乏型の漁業を脱し切れていないことが示されている。さらに、近年、東北地方の漁業就業者数の減少速度は全国平均よりはるかに大きいことが示されており、この背景には、北洋漁場への依存度の高かった東北海区の沖合・遠洋漁業が古くは米・露両国による漁獲割当て量の大幅削減と操業規制の強化、最近の大規模公海流し網の禁止やベーリング公海の操業規制等により転廃業を余儀なくされている実態がある。一方、我が国周辺水域の高度利用、沿岸漁業の重要性の増大等の近年の水産業の動向の中で、国民の余暇の増加と遊漁など海洋性レクリェーションとの調和のとれた新しいタイプの漁業のあり方が求めらている。このような背景下で、東北海区の漁業が多様な情勢変化に適切に対応するためには、その基盤となる技術の開発がなされなければならず、試験研究に対する期待は極めて大きい。
 東北区水産研究所では、これらの期待に応えるべく、「農林水産研究基本目標−国際化時代における農林水産研究の重点化方向−」(平成2年2月)、さらに、「科学技術政策大綱−新世紀に向けてとるべき科学技術政策の基本的な方向−」(平成4年4月)に基づく論議を踏まえた新たな視点に立って、研究展開を図るための重要研究課題を策定した。
 これらの研究課題の背景は海域・地域の特性と研究分野によって大別すると次のようになる。当海区は本州東北部の太平洋側海域(津軽海峡、陸奥湾を含む)に位置し、黒潮続流、津軽暖流、親潮の変動に伴って発生する舌状・渦状の暖・冷水が顕著な潮境を形成しながら複雑に入り組む混合水域であり、基礎生産力が大きく、暖・冷両水系の多くの海洋生物の成育場となっており、有用魚介藻類が豊かに分布する。特に、暖水系表層回遊性魚類(頭足類を含む)であるマイワシ、マサバ、サンマ、カツオ、クロマグロ、ビンナガ、カジキ類、サメ類、スルメイカ、アカイカ等の重要な索餌水域であり、これらの魚類が周年来遊し多獲される。このほか、近年、養魚餌料等のためにイカナゴ、ツノナシオキアミも季節的に集中して多獲される。とりわけ、浮魚類は相互に食物連鎖の中で関連しあい、例えば、魚種交替のようなドラスティックな資源変動をもたらしていることから、資源研究では群集生態学や生態系解析の分野にも視点を拡げていくことが求められている。しかも、この海域は海況の季節的・経年的変動が大きく、回遊性魚類の漁況はもとより、沿岸域の魚介藻類の発生・成育も大きく変動する。このため、漁業・養殖業、水産加工業、水産物流通業等への計画化、安定化、操業の効率化を図る上で、従来の海況と漁況及び資源動向の予測を中心とした成果に加えて、さらに、資源管理、漁業管理に踏み込んだ研究が期待されている。また、当海区の大陸棚は仙台湾と青森県南東部地先で20〜40海里の幅をもつが、他の水域では5〜20海里以下で極めて狭く、陸棚斜面は北部でやや緩やかであるが、全般に急傾斜で日本海溝へ落ち込んでいる。このため、浅海から漸深海にわたり種々の有用底生魚類が生息し、各種の底魚漁業が発達しており、水深1,000mを越す海底まで底びき網漁場として利用されている。しかし、これらの底生魚類は魚種によっては一時的に加入量が増えることもあるが、総じて強い漁獲圧により、資源が低水準にある。このため、底びき網漁業では適切な管理による資源の維持・回復を図り、生産と経営を安定させることが必要となっている。東北海区の漁業従事者数の減少は、日本全体の中でも、とりわけ著しく、一刻も早く資源管理型漁業の実現が期待されている。
 当海区におけるリアス式海岸や山地縁辺海岸は、ワカメ、コンブ等の海藻類やアワビ、ウニ等磯根資源に恵まれ、採藻、採貝が行われてきた。陸奥湾をはじめ各地の小湾では、冷水性魚介藻類の増養殖生産が行われている。養殖では、南部のリアス式海岸で古くからノリ、カキが生産されてきたが、その後、岩手・宮城両県を中心としたワカメ、陸奥湾を中心としたホタテガイの生産が急速に伸長し、特産品であるホヤの養殖も行われ、沿岸漁業の安定化に貢献した。さらに、最近は、コンブ、マツモ、アサリ、ギンザケ等養殖対象種が多様化している。特に、ギンザケの生産量が急増し、サクラマス、クロソイ、ヒラメなどの養殖も試みられ、冷水性魚類養殖の発展が期待されている。また、クロソイ、ヒラメ、カレイ、ニシン、マダラ等の増殖も試みられている。
 貝類では種苗生産・育成技術が進んでいるアワビの増殖が行われているが、天然資源の減少による漁獲減が大きな問題となっており、種苗の大量生産、餌料海藻植生の造成等による資源培養とともに、適正管理による生産の安定化が必要となっている。さらに、ウニの種苗生産が急速に進展しており、種苗放流と餌料造成による増産が期待されている。砂泥域の主要産物である二枚貝類については、種苗生産技術の高度化と漁場造成による資源の安定化が沿岸域の高度利用の観点から重要課題となっている。なお、養殖対象種の多様化が進む中で、養殖生産に適した品種の検索と改良の要求が高まっており、遺伝資源の収集・保存と特性評価が必要になっている。一方、養殖生産の急速な増大に伴う養殖漁場環境の悪化、養殖生物の病害、貝類毒化等の多発に対して、その発生原因・機構の解明と発生予察・防除手法の確立が関係漁業者等から求められている。
 上述の通り当海区は基礎生産力が大きく、世界でも有数の好漁場をもつ海域であり、海域特性に関する水産海洋研究では顕著な成果をあげてきた。しかし、この生産力の背景には亜寒帯・亜熱帯循環系の相互作用による複雑な海洋構造が大きく関与しており、新たに海洋環境と生物生産構造の関係といった生態系の構造と機能の解明が求められている。また、同海域の生態系は、炭素・窒素固定といった物質循環を通して地球環境変動の研究にも密接に関係している。
 近年、世界的に関心が高まっている地球環境問題については、海洋環境の保全等の観点から地球規模の研究が必要とされ、この分野での対応は極めて重要となっている。地球規模の環境問題等へ対応する海洋及び海洋生態系に関する国際共同調査研究では、世界海洋循環実験(WOCE)に当所も参画し、高精度の調査の分担と解析が進められている。また、世界海洋生態系力学研究(GLOBEC)、全地球海洋観測システム(GOOS)が世界的規模で立案され、実行に移す準備が整いつつあり、今後、これら研究への積極的な参画が期待されている。

第2章 研究問題及び研究推進方向

 東北海区の水産業が前章で述べた海区の特性を生かしつつ、その抱える問題を克服し、将来に向けて持続的発展を図っていくためには、適正な管理の下での資源の持続的利用、海洋環境と調和した漁業の実践、消費者ニーズに合致した質の高い水産物の安定供給、産業として魅力のある漁業の確立と、生活・就労の場として魅力のある漁村の創造等が重要な視点となる。このような視点から、東北区水産研究所は研究の効率的推進と資源管理・資源増殖・海洋環境の3研究分野の一層の連携強化を図るために、対応すべき主要な研究問題を以下の2つに整理し、それぞれに必要な研究課題を包括する。すなわち、各主要問題の最終目標を明確にして具体的な総合研究課題を設定し、それに必要な技術の確立・革新のための基礎的・先導的研究及び海区の特性に沿った基盤的研究を位置付け、それぞれの研究が主要研究問題の解決に向けて収斂するよう研究の重点化・一体化を図っていく。
 また、広域にわたり開放的な東北海区における研究を推進するために、研究技術情報の整備を図るとともに、関連海域の国公立試験研究機関・公共的な調査機関との密接な連携・協力体制を、一層強化して、海区における中核的研究機能を果たすよう努める。さらに長期的視野に立って、積極的に国際研究協力を推進していく。

T 東北海域における水産資源の培養及び持続的利用技術の確立

 東北海区は、海況・漁況の季節的・経年的変動が大きい海域であるため、従来から、表層回遊性魚類を中心に、海況と分布・回遊・来遊量・漁場形成など漁況との関係の解明が重点課題とされ、研究されてきた。我が国200海里水域とその周辺水域の資源の合理的利用の重要性が一段と高まっている現在、さらに、資源管理型漁業の確立をめざして、海洋環境及び漁獲対象生物の生理・生態・資源に関する研究を推進する。底びき網漁業や底生魚類への依存度の高い沿岸漁業においては、強い漁獲により低水準にある資源を合理的な生産計画に基づく操業により維持・回復させ、個別経営及び地域漁業全体の生産の安定化を図る必要がある。また、国際対応においても、サンマ、カツオ、表層性サメ類、イトヒキダラ等東北海域に関連した魚類資源の現状評価と許容漁獲量の推定が求められている。このため、さらに、資源変動の解明等を含め、資源・漁業管理技術の確立をめざした研究を発展させる必要がある。
 沿岸域においては、天然資源の維持管理にとどまらず、積極的な有用資源の培養や養殖業の振興等つくり育てる漁業を育成・推進する必要がある。このため、資源培養技術の確立、増養殖場の造成と管理技術の開発、遺伝資源の保存と優良品種の育成、貝毒被害防除技術の確立等の増養殖技術の研究を推進する。

U 混合域における生態系の解明と保全

 海洋は水を媒体とした環境であるため、生物と環境(他の生物、物理、化学要因)の関係は陸上のそれとは異なる面が多い。また、生物は、それ単独で生活しているわけではなく、環境と相互に影響しあいながら生きている。そのため、生物と環境の関係、すなわち海洋生態系を対象とした研究が本来必要である。
 東北海区は、亜寒帯・亜熱帯循環がモザイク状に入り組んだ複雑な海洋構造となっているため、生物と環境の相互作用は変動が大きく、有用魚介藻類の生産が強い影響を受けることがある。このため、東北海区の特性に応じた生態系研究の展開が求められている。その場合、海洋生態系全体を貫くエネルギーフローの観点と、一般には有用とされない魚介藻類の生態系での位置付けを明らかにしていくことが主要となろう。従来の研究は、漁獲量と水温の関係といった一元的な研究が主体であったが、両者の関係には多くの生物・化学・物理環境要因が網の目状に関与していることが明らかにされてきた。これらを一つの生態系として捉える研究の必要性が求められている。
 海洋生態系の研究は、地球規模の環境問題等への対応を含めて、資源管理、資源増殖、海洋環境の3研究分野の連携・共同によって遂行されるが、同時に、国内外研究機関との連携・共同分担を深めながら推進する。東北区水産研究所では、海洋環境変動を解明するために、海洋環境モニタリングに関する研究、海況予測手法の開発を推進し、さらに、海洋生態系が維持されている機構を明らかにするために、生態系の構造と機能の解明、生態系の機能・多様性の保全技術の開発をめざした研究を推進する。

第3章 研究課題の体系

T 東北海域における水産資源の培養及び持続的利用技術の確立

1 水塊構造と変動機構の解明

 東北海域は、黒潮続流、津軽暖流、親潮といった寒暖両流が接し合い、舌状、渦状の暖冷水が複雑に入り組み、顕著な潮境が発達する特異な海洋構造を有している。これらの海域は極めて高い生産力を有しているために、寒暖両水系の水産資源の成育・索餌場としても重要な海域となっている。また海洋変動は内湾・沿岸の増養殖業から沖合の漁船漁業に至る生産に大きな影響を与えている。このため、調査船による海洋観測や係留系観測、人工衛星観測、定期船による航走水温観測等と理論解析を有機的に組み合わせ、東北海域の沿岸から沖合に至る海洋構造とその変動機構を解明する。
(1) 沿岸域における海洋動態の把握
 東北沿岸域の海洋環境は、津軽暖流、親潮分枝流、近海を北上する黒潮系暖水に直接的・間接的に支配されている。これら沿岸域の海洋構造とその変動を支配する個々の現象の動態を把握するとともに、各現象の相互作用を調べ、沿岸域の海洋の変動機構を解明する。
(2) 沖合域における海洋動態の把握
 東北沖合域の海洋環境は、黒潮続流とそれから派生する暖水および亜寒帯前線の変動に伴って南下する親潮系冷水の挙動に支配されている。これら沖合域の動態を広域・長期的視点から把握し、海洋の中・長期的変動機構の解明をめざす。また、海洋の短期変動を支配する中・小規模スケールの暖・冷水渦や舌状構造の動態と変動機構を明らかにする。

2 水産資源の生物特性の解明

 東北海区及びその関連水域には、浮魚・底魚・イカ類等、あるいは沿岸・沖合性の多くの重要水産資源並びにそれらの餌生物が、海洋環境に適応して分布・生活している。これらの重要水産資源は種々の漁業により高度に利用されており、資源の有効利用を図るためには、それぞれの生物種ごとに系統群構造や個体群生態の諸側面等の生物特性を漁業情報、調査船調査、飼育実験、DNA解析などの手法を用いて的確に把握する必要がある。さらに生物資源の特性である再生産については、成魚の産卵生態やふ化から加入に至る仔稚魚期の生態を明らかにする。
(1) 資源生物の生理・生態の解明
 有用な水産資源生物について、系統群、分布、回遊、発生、成長、成熟、産卵、年齢、死亡、食性等の諸特性を解明し、発育段階及び生活周期別に個体群の生活の実態を明らかにする。これらの知見は対象資源によって蓄積の程度や内容は異なるので、資源変動機構及び魚種交替現象の解明に必要な基礎的知見の充足を重点的に行うとともに、それらの基礎的知見と生物及び物理環境との関係を検討する。また沿岸生物資源を安定・持続的に利用するとともに、一層の増大を図るための生物学的基盤として、それら多様な生物の発育に伴う生理・生態の変化を解明し、各生物の個体レベルでの特性を明らかにする。同時に、種内関係及び種間関係を体系的に把握して、個体群及び群集の動態を制御する機構を解明する。
(2)資源生物の再生産機構の解明
 有用水産資源生物について、成熟、産卵、生残(死亡)、加入等の再生産過程の定量的な把握とそれらに関わる諸要因を明らかにし、再生産のしくみを解明する。特に「魚種交替」現象が生じているプランクトン食性小型浮魚類については、再生産過程に資源変動機構の鍵があると考えられているので、その解明に努めるとともに、基礎的知見が極めて少ない底魚類やイカ類その他についても研究を展開する。

3 水産資源の変動機構の解明

 東北海区及びその関連水域には、サンマ、マサバ、マイワシ、カタクチイワシ、スルメイカ、アカイカ、カツオ、クロマグロ、サメ等の表層回遊性魚類、イカ類、スケトウダラ、マダラ、ヒラメ、カレイ類等の底魚類、イカナゴ、ツノナシオキアミ、プランクトン類の餌料生物等多くの種類が生息・分布している。これらの資源の変動機構を解明するためには、魚種交替等の魚種間の相互関連を含む解析手法の一層の発展を図る必要がある。また、そのことを通じ、主要魚類の資源評価を行い、その精度の向上を図る。
(1) 資源解析手法の確立
 資源量の変動要因は、人為的要因である漁獲と自然的要因である物理的・化学的・生物的環境要因とに分けられる。これらの要因は、親魚の再生産力、個体群密度、仔稚魚期の生残り、被食等に深く関わっており、これらが複雑に作用して再生産量や加入量が変化し、その結果、資源量が変動する。これらの資源変動要因を解明するとともに、変動要因を組み込んだシミュレーションモデルを開発する。さらにクィックアセスメント手法を具体的な資源評価に適用する方法、底びき網漁業資源についての多種類資源即時評価手法の開発を図る。
(2) 資源の評価
 資源の現状を把握するためには、調査船調査による産卵量・仔稚魚量、計量魚群探知機や漁獲調査等の資料に基づく方法とともに、漁獲・生物統計資料が用いられる。東北海区及び関連水域の主要な表層回遊性浮魚類・底魚類・イカ類について、各生物種に適した手法を開発するとともに、資源の現状とその変動傾向を評価する。
4 資源管理・漁業管理技術の確立
 東北海区及び関連水域における資源管理型漁業を発展させるためには、重要水産資源の生物特性及び変動機構の研究成果を踏まえ、漁況の予測や適切な漁獲量・漁獲努力量等を決定する必要がある。そこで、多種類資源を同時に管理する手法の開発、複数漁業による同一資源の適正な利用・配分、同一漁法による複数資源の利用における資源管理方策等を検討する。さらに、社会・経済的諸条件及び資源状態と調和のとれた操業の規模、方法を考慮した漁業管理技術の確立をめざす。
(1) 漁況予測手法の確立
 サンマ、マイワシ、カタクチイワシ、マサバ、カツオ、イカ類等表層回遊性浮魚類・イカ類、スケトウダラ、マダラ、ヒラメ等底魚類について、資源の変動過程、発生量、加入量水準、漁場への来遊過程、海況と漁場形成要因の関係等を解明し、漁況予測の精度向上を図る。
(2) 資源管理技術の確立
 重要水産資源について、漁獲量・資源量・漁獲率及び「体長−年齢関係式」等の生物特性値を用いて許容(可能)漁獲量を推定する。また、資源を適正な水準に維持して行くため、加入量水準の的確な予測や産卵場、仔稚魚の保護等の方策も合わせて検討し、資源の管理技術を確立する。
(3) 漁業管理技術の確立
 各種漁業について決定された主要魚類等資源の許容漁獲量に基づき、漁獲努力量の適正な配分と産卵場・仔稚魚の保護のための漁獲制限等の諸施策を提案する。また、複合漁業による同一資源の適正な利用・配分、同一漁法による複数資源の利用を社会・経済的諸条件や資源状態と調和をとりながら、操業の規模、方法を考慮した漁業管理技術の確立をめざす。

5 増養殖技術の確立

 東北海域の沿岸域には太平洋に面した外洋や仙台湾とともに、陸奥湾などの内湾があり、さらに、三陸のリアス式海岸など地形が様々に変化し、砂浜域と岩礁域とが複雑に入り組んでおり、これら地形や底質を有効に活用した増養殖が行われている。そこで、沿岸域での一層の生産増大を図るために、必要な栽培漁業の開発、増養殖事業の生産性向上や多様化・複合化による新たな展開を推進する基盤技術を確立する。
(1) 資源培養技術の確立
 北方系の有用魚介類では、つくり育てる漁業の基盤である大量種苗生産技術及び適正放流技術が未だ十分ではない。従って、これらの技術開発の基盤となる餌料生物の探索及び大量培養法、ならびに種苗放流についての研究を進めるとともに、種苗放流が天然資源に与える影響についても明らかにする。
(2) 増養殖場の造成と管理技術の開発
 東北海域では魚類、貝類、海藻類等多様な生物が増養殖されている。これらの増養殖を効果的に展開する場の造成に必要な生物的及び物理・化学的な適正条件を魚種別に明らかにするとともに、それらを保全するための技術開発を進める。
(3) 遺伝資源の保存と優良品種の育成
 東北海域ではホタテガイ、ギンザケ、カキ等の養殖は盛んであるが、低水温などが障害となって、南方域に比較して限られた魚種で養殖業が行われているに過ぎない。そこで、育種技術により新品種を作出して、養殖魚種の多様化を進めるための基盤とする。また、生物種の多様性及び種内の遺伝的多様性を確保するため、海藻類等について、遺伝資源の収集・保存及び特性評価を進める。
(4) 貝類被害防除技術の確立
 二枚貝の増養殖業は沿岸漁業振興の重要な柱として期待されているが、貝類が毒化する現象が近年各地で頻発し、その進展を阻害する大きな要因となっている。そこで、貝類を毒化させる主要な原因生物である鞭毛藻類の消長の実態を把握して毒化予知技術を高度化するとともに、貝類が毒を蓄積及び低減する機構などを明らかにして、貝毒による産業的な被害を防除する技術を開発する。

U 混合域における生態系の解明と保全

1 海洋環境変動の解明

 生態系は、環境と生物により構成されているが、東北海域では生物をとりまく環境の変動が大きく、時には生物にとり支配的であるため、当海域の生態系の解明のためには、海洋環境変動による影響を評価する必要がある。また、地球環境問題の研究においても海洋環境の長期変動とその機構を明らかにすることが国際的に求められている。そのため、最新の観測機器・手法を開発し、海洋環境をモニターすることにより変動のモデル化、予測手法の開発を行い、海洋生態系モデルの確立に寄与する。
(1) 海洋環境のモニタリングに関する研究
 地球環境問題の顕在化に伴い、生態系にも長期的に影響が波及すると予想されるため、地球の諸現象を総合的・一体的にモニタリングして把握する必要が生じている。東北海域は海洋構造が複雑であり、広範囲にわたる情報を連続的に収集するためには、同時的な観測が可能な衛星、漂流ブイ等の最先端の観測機器・技術による海洋モニタリングシステムを確立する必要がある。
(2) 海況予測手法の開発
 水産資源の持続的利用を行うためには、海洋生態系モデルを確立し、モデルを運用することにより水産資源の有効利用を考えていかなければならない。生態系モデルを構成するモデルの一つとして、環境としての海洋物理・力学モデルを確立し、北西太平洋規模、東北海区規模、東北沿岸域規模の海況予測を行い、生態系の変化を予測する必要がある。このため、モデルを構築するための基礎データを収集し、海況予測モデルのアルゴリズムを確立する。

2 生態系維持機構の解明

 東北海域は、亜寒帯循環と亜熱帯循環に挟まれ、両循環がモザイク状に入り組んだ複雑な水塊構造を形成している。沿岸域では、津軽暖流、親潮・黒潮系暖水、暖水塊等の離接岸により著しく環境が変動し、沖合でも水塊間の相互作用により水塊内部の環境が大きく変動する。そのため、生態系における生物と環境の相互作用は複雑で変動も激しいと考えられる。ここでは、基礎生産から高次生産へのエネルギーフローの実態を把握し、各栄養段階の構造・生産過程を明らかにして生態系の維持機構を解明する。同時に、生態系が有すると考えられる調和・安定機能を利用しつつ、多様な生態系を保全していく技術を確立する。
(1) 生態系の構造と機能の解明
 生態系は環境と生物により構成されており、生物は群集、個体群、種等の様々なグループに分けられるとともに、エネルギーフローからは生産者、消費者等にも分類される。生態系を研究するには、まず、これらの構成要素を明らかにして生物や環境の構成要素間のネットワークを解明すること、構成要素がネットワークの中で果たしている機能を解明することが必要である。
(2) 生態系の機能・多様性の保全技術の開発
 地球規模の環境問題を解決するためには生態系の調和・安定機能を保全しつつ、そのしくみを利用することが基本的に重要である。また、これらの生態系は多種多様な生物種から構成されており、それぞれが生態系の中で多様な役割を果たしている。そこで、種の多様性及び種内の遺伝的多様性の実態を明らかにした上で、これらを保全しつつ、生物資源の開発と利用技術の確立をめざす。

第4章 研究課題の段階的達成目標と連携協力

第5章 東北区水産研究所研究職組織図(省略)


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