平成12年度報告

 

 

 

データベースの構築等に関する研究

平成13年度報告

 

調査研究の目標および成果の概要

 

 

永田豊・鈴木亨・桑木野文章・村井弥亮・小熊幸子

()日本水路協会海洋情報研究センター)

 

 

 

 

 

目次

 

 

 

目的                                                                                                                1

平成13年度の研究実績・成果                                                            1

(1)品質管理とデータベース化

(2)メタデータの付加とメタデータ情報の収集管理

(3)歴史的未収録データの発掘・品質管理・付加

(4)品質管理手法の研究

海外との協力、協議等の国際活動                                                                   4

研究成果の詳細内容                       4

                   
調査研究の目標および成果の概要

 

1. 目的

本計画で取得され、収集されたデータについて、第I期で開発した品質管理手を適用して、データベースの質の向上を行うと共に、メタデータ情報を収集管理してデータに付加する。また、未収録の歴史的データの発掘・品質管理を行って、データベースに付加する。海洋学と統計学に照らし合わせた品質管理手法のアルゴリズムについて研究開発を引き続いて実施し、その成果を本計画の研究者に提供する

 

2.平成13年度の研究実績・成果

1)品質管理とデータベース化

 本計画内で得られた新しいデータについては、JODCに送られ次第品質チェックを実行し、エラー情報を含むメタデータを付加して、JODCに送付した。ただし、現在までに全てのデータが送付されてきたとは云えない。今後遅れて到着するデータについては独自の努力で作業を続行していきたい。

 

2)メタデータの付加とメタデータ情報の収集管理

 新規データへのメタデータ付加は、(1)に述べた通りであるが、これとは別個に本計画内で得られた化学データについては、MIRCの研究者を含めた国内外の関連研究者間でまとめられている有効かつ実行可能と考えられるメタデータの素案にしたがって、メタデータの付加と、インベントリー情報を中心としたオンライン提供体制を整えた。なお、この開発研究に関連して、下記の会議に出席し、成果を発表するとともに、諸機関を訪問して情報収集・意見の交換をおこなった。

(イ)      PICES総会とカナダのデータセンター(MEDS)への出張

北太平洋海洋科学機構(PICES)は日・米・加・露・韓・中によって組織される国際機関で、主として北緯40度以北の北太平洋海域の海洋研究の促進を目指している。本年度の総会は10月にカナダのビクトリアで開催されたが、これに参加するとともに、各種のシンポジウム・データ関連の委員会に出席し、データ。情報の収集・交換を行った。また、この機会を捉えてオタワにあるカナダのデータセンター(海洋のみでなく気象データも扱う)を訪問し、カナダにおける海洋データの収集・管理状況を視察するとともに、MIRCの最近の活動・研究状況を講演するなど、各種の情報交換を行った。また、ケベックのラバル大学を訪問して情報交換を行った。

(ロ)      つくば出張

 つくばで開かれたSAGE合同分科会に出席し、研究発表を行った。また同時に開かれた幹事会にも出席して討議に参加した。

 

3)歴史的未収録データの発掘・品質管理・付加

 JODCに未収録の、過去の亜寒帯海域の海洋観測データを入手し、整理して基本的な品質管理を施した上、JODCに送付した。大学関係の観測データの多くはJODCに収録されていないので、その実態の調査を昨年に引き続き実施し、その所在情報を収集整理した。その他のJODC未収録データの発掘とデータベース化も可能な限り実施してきてた。また、最近の観測結果を可能な限りデータベースに加えるため、WOCE国際プロジェクトオフイスから関連資料を購入した。なお、この開発研究に関連して、以下のように釧路の北海道区水産研究所および塩釜の東北海区水産研究所を訪問して情報収集をおこなった。

()北海道区水産研究所において過去に観測されたデータの所在情報を調査した。また同研究所は、北海道厚岸沖あるいはえりも岬から南西に延びる測線において集中的な観測を実施してきており、SAGE構成の主要な機関の1つである。その中には測流観測も含まれる。これらのデータの一部は整理中であり、JODCに送付されていないものもかなりある。これらのデータの整理状況を視察するとともに、メタデータの形式・付加方法等について意見の交換を行った。

 

4)品質管理手法の研究

I期においては、特に複雑な三陸沖の混合域を対象として、高度の品質管理を実行するための種々の品質管理パラメーター設定を行った。前年度では、三陸沖で所得されたデータに生じる大きな歪についてその原因を海洋学的に追求した。今年度には、このような歪の様子を、データ分布の3次のモーメント(歪度:skewness)あるいは4次のモーメント(尖度:kurtosis)を用いて表現することを行い、西部北太平洋全域を対象にして地域特性を調べた。この結果、三陸沖に見られた歪んだ正規分布特性(300m付近に最も特徴的に現れる)を示す地域は東北東に延び東経150度付近まで達していることが分かった。また、データに大きな歪を示す海域としては、この他に東経150度付近のクリル列島南部に100層を中心に見られる。これは、表層の夏季の高温水が、100m付近まで影響することがあり、これが通常の下層の冷水との間に大きな水温差を持つことから、大きな歪を与える原因となるためである。また、黒潮続流の南部北緯3034度付近に、逆に負の大きな歪度をもつ海域が現れる。これは三陸沖での歪が、亜寒帯域にたまたま侵入した黒潮系の水が原因になっているのに対応し、亜熱帯域に親潮系の亜寒帯の水が時々浸入してくるためと考えられる。すなわち、黒潮続流を越えて、その蛇行から亜寒帯水が切離冷水塊として運ばれるためであると考えられる。これらの海域ではデータ管理上、生起確率は低いが、平均値から非常に離れた異常水が生じ得るわけで、単純に平均値から3倍の標準偏差以上はなれた特異値を取り除くような操作を加えるべきでない。この研究成果については、研究成果の詳細内容の章で詳しく説明する。この開発研究に関連して、以下のように岩手県水産技術センターを訪問して情報収集をおこなった。

() 岩手県水産技術センターを訪問出張

 釜石にある岩手県水産技術センターを訪問して、最新の観測情報を収集すると共に、三陸沖海域に生じる水温正規分布の歪と津軽暖流との関連について意見の交換を行った。

 

3. 海外との協力、協議等の国際活動

米国やオーストラリア等のNODC (National Oceanographic Data Center:国立海洋データセンター)とメタデータの設計等に関連して協力・協議を行ってきている。本年度はカナダのMEDSを訪問し、またPICESの総会に出席したことはすでに述べたが、他の機会を利用して米国のNODCを訪問し、水温・塩分の生起頻度分布の歪について相互の研究結果を検討するとともに、種々の情報の交換を行った。われわれが問題としているようなデータの生起分布に現れる大きな歪は、北大西洋の亜寒帯にも見られるということで、非常に高い関心が示された。この結果については、毎年紋別市でひらかれる国際シンポジウム等で発表してきた。このような解析の例は他にほとんどなく、また、データ管理に直接的にかかわるものとして、高い関心を受けている。

 

4.   研究成果の詳細内容

ここでは、品質管理手法の研究において検討した亜寒帯海域に現れる水温・塩分の生起頻度分布に現れる歪の特性と、品質管理上の問題点について詳述する。

平成12年度において報告したように、三陸沖の混合水域における生起頻度分布に著しい歪が生じる。岩手県水産技術センターが1971年から1995年までの25年間に観測した全ての水温・塩分の資料から求めた各標準層における水温、塩分の生起頻度分布を図1および図2に示す。(改めて品質管理を行ったデータから計算しなおしているので、前年度報告とは若干異なる。また、前年度の報告では平均値から3倍の標準偏差を超すデータを取り除き、改めて平均。標準偏差を求める操作を繰り返して行い、収束したときの平均・標準偏差を用いていた。ここでは、品質管理済の生のデータから直接計算した値を用いている。)この図からわかるようにこの海域では、150m深付近を境にして、より上層とより下層との間で生起分布の形状が大きく異なっており、上層では対称的で正規分布に近いのに対して、下層では著しい歪を生じている。

各図にはそれぞれ、平均値・標準偏差・歪度・尖度の値が与えられているが、歪度(skewness)Σ(xi – m)3/(n-1)σ3で、尖度(kurtosis)Σ(xi – m)4/(n-1)σ4で定義される。ただし、尖度に関して正規分布においても3の値を示すので、ここでは尖度からこの3を引いた偏差値を尖度として表示している。一般に海域を限ると水温・塩分の間に相関があるため、分布形状は両者で類似している。しかし、歪に関しては、水温の方により明確に現れるので、以下の議論では水温を中心に論じることにする。データの歪の特性の地理的分布特性を調べるのに、この歪度および尖度を利用する。

西部北太平洋を対象にして1度メッシュに分けた海域毎に、水温の平均値、標準偏差、歪度、尖度を、各標準層について計算した。その結果を水深100m200mおよび300mについて、それぞれ図3、4、5、6に示す。図3の水温分布は、黒潮前線と親潮前線に挟まれた混合水域において、顕著な水温の南北勾配が見られるが、全般に北から南に水温が減少する様子を示している。図4の標準偏差は、黒潮続流部での蛇行等の変動から、黒潮続流部で極大値を示している。

図5の歪度の分布を見ると、300m深において三陸沖から東北東に延びる気域で、正の大きな歪度が見られる。この部分を代表する水域として東経143度、北緯40度を中心とする1度x1度の海域を選んで、0m100m200m300mにおける水温・塩分の生起頻度分布を示したのが、図7である。この歪は、100m200m層では顕著ではない。この分布特性ならびにその深度変化は、図1、2の分布とほぼ同じであり、やや沖合のこの地点でも三陸沖の特性を示していることがわかる。図6の尖度分布にもこれに対応する顕著な正の値を示す領域が現れており、平均値から非常に離れた異常値の出現に、分布の歪とともにその尖り方が関与していることが分る。

5の歪度の分布には、200m300m層において、黒潮続流の南側、北緯33度付近に負の大きな値を示す領域が現れている。図8に東経144度、北緯33度を中心とする海域における、0m100m200m300m層における水温・塩分の生起頻度分布を示すが、100mより深い層で、全体的な分布に低い頻度であるが、低温・低塩分側へ分布が延びているのが分る。これは300mを越す深度まで親潮系の水が時折浸入してくりことを示している。このあたりは、黒潮続流の蛇行から、冷水塊がしばしば続流の南側に放出される場所に当たり、三陸沖での黒潮続流からの暖水塊の放出にともなう歪と丁度対称的な現象が起こっているわけである。この場合も大きな正の尖度がこの海域に現れているのは、混合水域の場合と同じである。

300m深では現れていないが、特に100m層において、大きな歪度がクリル列島の南側、東経144度、北緯33度付近に現れている。この地点を中心とする海域での水温および塩分の生起頻度分布を0m50m100m200m層について、図9に示す。0m層における水温・塩分値は50m以深のものに比べて、著しく高温・低塩分側に分布している。これは、この海域での観測の多くが夏季に行われていることにも関係しているが、安定して存在する表層に限られた低塩分水が、日照により高温化しているものと考えられる。下層は一般に5℃以下の冷水に占められているが、少なくとも100m水深まで高温の表層水の影響が現れるようで、10℃に近い水温を持つ暖水の出現が見られる。この表層水の影響が大きな歪度あるいは尖度が現れる原因であろう。このように、非常に性質の異なった水塊が上下に成層している場合も、大きな歪が生じえることに注意する必要がある。

この他、日本海にも大きな歪度・尖度が現れるが、日本海においては数百m以深に水温・塩分がほぼ一定な日本海固有水が存在しており、表層において対馬海流水に起源を持つ高水温の水の影響が現れるためと考えられる。

このように、亜寒帯海域あるいはその周辺の海域では、非常に歪んだ水温・塩分の正規分布が現れることが明らかにすることができた。このような歪んだ正規分布は、米国のNODC S. Levitus博士も、北大西洋の亜寒帯域で見出している。今後、北太平洋と北大西洋の比較検討を行う必要がある。ここでの結果は、データの品質管理において、場所によっては、平均値から、標準偏差の3倍以上離れた測定値を疑問のあるデータとして、解析から外していくという通常の考え方が成立しないことを示している。高度の品質管理においては、このような点を十分考慮していく必要がある。

 


 

図1

 

 

図2

 

 

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