北海道南東沖における親潮中層水の分布と流れの季節変化について

独立行政法人 水産総合研究センター 北海道区水産研究所

亜寒帯海洋環境部 海洋動態研究室 川崎康寛・日下 彰

研究の背景・ねらい

 10年〜数十年周期で起こる北太平洋の気候変動には、中緯度に広く分布し、塩分極小層で特徴づけられる北太平洋中層水が重要と考えられている。親潮中層水は、カムチャツカ半島南岸を流れる亜寒帯水とオホーツク海水とが混合・変質して形成され、北太平洋中層水の起源水と考えられるが、その実態を捉えた研究はほとんどない。当研究所では1987年4月より年6〜7回の頻度で釧路沖に観測線を設定しており、CTD観測を3500mまで実施している。本研究では親潮中層水を定量的に捉え、まず季節変動を明らかにする。

 

研究成果の内容・特徴

各季節毎にポテンシャル水温の断面図の例を図1に示す。図はそれぞれ1990年1月、1992年4月、1992年6月、そして1993年10月の結果を示し、図の左側が北海道沿岸で、縦軸は深さの代わりに密度を示す。密度を座標に取ることにより海水の起源(オホーツク海起源か西部亜寒帯起源か、あるいは亜熱帯起源か)が分かる。ポテンシャル水温を見ると密度26.5〜27.0σにおいて1.5以下となる観測時期はおおむね春季であり、オホーツク海水の流出時期に対応している。

また、それぞれの時期における密度層毎の流量分布(他の機関の観測と比較するため2000db基準の地衡流量とした)を図2に示す。陰影部分は南西流を表し、暖水塊が大陸斜面上に存在した期間を除き、すべての観測で大陸斜面を南西に流れていた。27.0σより高密度側ではほぼ周年南西流がみられるのに対し、低密度側では季節・経年変化が大きい。また27.0σより低密度側ではたびたび流量の極大となる層がみられるが極大を示す密度は必ずしも同一ではない。26.5〜27.0σにおける南西向きの流量が極大となる観測は冬〜春にかけてであり、秋に極小となる傾向にあるが季節変化のパターンは年によって大きく変化する。

月別に平均しておおよその変動をまとめると、図3に示すようになる。オホーツク海水主体の中層上部(26.6〜27.0σ)では3月から4月に平均4.5svで最大を、10月に平均2.0svと最小を示し、西部亜寒帯水主体の中層下部(27.0〜27.4σ)では4月から5月に平均4.7svで最大、10月に平均2.1svで最小となる季節変動を示し、中層上部の流量が中層下部よりもやや先行してピークを迎えた。流量が極大を示す観測時期に顕著な南西流を示す領域は水温などからオホーツク海水の影響を受けていると考えられた。

次に西部亜寒帯域で認められた水塊の経年変動が北海道南東沖の親潮中層にどのように現れたのか調べた。図4に各年5月におけるポテンシャル水温の鉛直分布を示す。図は左から1992,1993,1996そして1998年の5月である。大きく異なっているのは中冷水が分布する密度層が密度26.6σを中心とする層から1996年以降26.5σ〜26.4σに移っていることである。それは3以上の中暖水が北海道南東沖で広く密度26.8σまで分布していることと対をなしているが、これは冬季の鉛直混合のされ方が従来とは異なってきているのかもしれない。図では示さないが、中層水の輸送という観点から見ると顕著な経年変動は認められなかった。

 

今後の発展方向

現在、釧路沖観測線では水深1200m、3200m、3800m上に計7台の流速計が設置されており、親潮の流向・流速を観測中である。親潮の絶対流量は、これらの測流記録と合わせて求める必要がある。また、親潮の水塊特性には1990年代の半ばに大きな変化が現れているが、どのような気候変動とどう関わっているのか更に明らかにしていきたいと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 


図1 北海道南東沖におけるポテンシャル水温の分布。縦軸はポテンシャル密度、横軸は道東沿岸からの距離を表す。3℃以下の領域に陰影を付ける。左から1990年1月、1992年4月、6月、1993年10月を表す。

 

 

 

 

 

 

 

 


図2 北海道南東沖における密度層毎の流量分布(2000db基準の地衡流に基づく。密度層0.1刻み、距離3km毎)。陰影部は南西向きの流れを表す。観測時期は図1と同じ。

 

 

 


図3 北海道南東沖における親潮中層水輸送流量の季節変化(1988〜2001年の平均値)。2000db基準で計算する。Δ は中層上部(26.6〜27.0σ、100〜500m)、X は中層下部(27.0〜27.4σ、500〜1000m)の流量を、□ は全流量を表す。

 

 

 

 

 

 

 

 


図4 北海道南東沖における春季のポテンシャル水温鉛直分布の経年変化。縦軸はポテンシャル密度、横軸は道東沿岸からの距離を表す。左から1992,1993,1996,1998年5月を表す。