中層フロートによる中層循環の観測

岩尾尊徳*,四竈信行**,遠藤昌宏*,中野俊也*

*気象研究所海洋研究部,**地球観測フロンティア研究システム

APEX

目次

  • 1.はじめに
  • 2.SAGEで用いた中層フロート
  • 3.中層フロートの投入と動作状況
  • 4.中層循環の推定
  • 5.おわりに
  • 参考文献
  • 略号表

    図表

    1.はじめに

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    海洋の大規模な循環は水深数百〜約1000mまでの表層とそれより下の深層では,その様相が大きく異なる. 表層では主として風で駆動される循環(風成循環)が卓越し,深層では水温塩分の分布で決まる密度差に 起因する循環(熱塩循環)が卓越する.北緯20度付近以北の北太平洋の表層では南北に2つの大きな循環が みられる.北側の循環は亜寒帯循環と呼ばれ,北海道近海からアラスカ湾にわたる反時計回りの循環で, 親潮はこの循環の一部である.南側の循環は亜熱帯循環と呼ばれ,南西諸島から北米沿岸にわたる時計回りの 循環で,黒潮はこの循環の一部である.本州東方ははこれら二つの循環が出会う海域であるが, 両者は直接接しておらず,間に混合域と呼ばれる海域を挟んでいる.

    北太平洋表層の亜熱帯循環の下部では鉛直方向の塩分極小層で特徴付けられる北太平洋中層水 (NPIW)と呼ばれる水が広く分布している. これまでの観測研究から,この塩分極小水はポテンシャル密度(σθ)が約26.8の層に沿って存在しており, NPIWの形成は本州東方の混合域付近のみで 起きており(Talley,1993),生成過程には亜寒帯起源水と亜熱帯起源水の相互作用が重要であることが指摘されている (例えばYasuda,1997). NPIWはその起源域から北太平洋亜熱帯循環域のほぼ全域に広がっていることから,海洋の中層循環は熱や物質の循環や蓄積を通して 気候変動とも重要な関連があると考えられている.

    表層,中層,深層という語句についての明確な定義があるわけではないが,以下では風成循環が卓越する 数百〜約1000m深までを2つの層に分け,冬季海面混合層が達する海面から200m深付近までを表層, 下側の層を中層と呼ぶことにする.

    1950年代に海洋中層の密度と釣り合って中層を漂流するフロートが考案され,その後様々なタイプの 中層フロートの開発が進み有力な海洋観測測器として実用化されている(四竈,1993). Swallowフロート(Swallow,1955)は一定時間ごとに音を発信し,観測船に搭載した水中マイクで 音波を受信してフロートの動きを追跡して,中層の流れを推定するものである. 観測船による追跡が必要なため10日程度の観測しか継続できなかった. Rossby and Webb(1970)SOFAR層と 呼ばれる音波が非常に遠方まで伝わる層を利用して,複数の水中マイクを数百〜1000km程度の間隔で海中に配置して,フロートが発する 音波を記録・解析してフロートの位置を決定するシステムを考案した(SOFARフロート). SOFARフロートはデータを得るために水中マイクと共にある 記録部を船で回収に行く必要があるため,あまり経済的とはいえない. SOFARフロートとは逆に複数の音源を配置してフロートに 水中マイクを搭載し,記録された音源からの信号を解析することで位置決定するようにした RAFOSフロートが開発された (Rossby and Dorson,1983). RAFOSフロートは一定期間中層を漂流した後自働的に錘りを 切離して浮上し,人工衛星経由でデータを送信するため,回収に向かう必要は無い. SOFARRAFOS フロートは発信される音波の時間間隔毎にフロートの位置決定するため詳細な中層の流れを観測することができる反面,記録部を回収したり, フロートが浮上してデータを送信するまで観測結果を得ることができず,リアルタイムの観測には向いていない.

    Davis et al. (1991)は定期的に浮力を調節して沈降と浮上を繰り返す ALACEフロートを開発した. このフロートは海面と予め設定された深度との間を数十回以上往復するもので,中層にいる時間を 例えば1か月に設定すれば,1か月間の平均的な中層の流れが推定できる.位置決定は浮上時にアルゴスシステム等の 人口衛星を利用したシステムで行い同時に観測データ(中層漂流時の平均水温,圧力等)も送信される. 海面に浮上している間しか位置決定できないので,中層の流れを詳細に推定することはできないが, ほぼリアルタイムで観測結果が得られるという利点がある.また,音源等を設置する必要が無いため非常に経済的でもある. PALACEフロートは ALACEフロートの機能を強化して浮上または沈降する時に 水温塩分等の鉛直分布を計測できるようにしたものである. APEXフロートでは,機能がさらに強化され, 漂流中に圧力を計測して一定の圧力面に留まることができるようになっており,さらに浮上直前に 一旦さらに深くまで沈降して,より深くからの水温,塩分の鉛直分布の測定が可能となっている ( http://www.webbresearch.com/ ). PALACEまたは APEXフロートと同様の機能をもつフロートは現在 SOLO: スクリプス海洋研究所(SIO)で開発されたもの, PROVOR: フランスIFREMER及びMARTEC社で開発されたもの,等があり日本でも樺゚見精機で開発中である.

    中層での詳細な流れの観測とリアルタイムのデータ取得を両立させるために ALFOSフロートに ALACEフロートの機能を 持たせたALFOS フロートも開発されている(Ollitrault et al.,1994).

    気象研究所ではこれまで様々な研究計画の中で中層フロートを導入して北太平洋西部の中層循環について観測・研究を実施してきた. 1993年度から1994年度にかけて実施された「海洋大循環の実態解明と総合観測システムに関する国際共同研究(第U期)」の副課題 「北太平洋中層循環に関する観測研究」では ALACEフロートと RAFOSフロートおよび ALFOSフロートを 日本で最初に導入した(四竈,1995). 1994年度から1999年度にかけて実施された「黒潮の開発利用調査研究」(第V期)では黒潮の副循環系の実態把握を目的として, フィリピン東方から台湾の東方に合計5台の ALACEフロートと PALACEフロートを 投入して亜熱帯循環西部の中層循環を調査した. この研究ではフィリピン近海での北赤道海流の分岐,北赤道海流から黒潮につながる流れ,東シナ海への流入,東シナ海からの流出, 沖縄の東を北上する流れ,黒潮の副循環等多くの中層循環の様子を捉えることに成功した (Shikama et al., 1998四竈, 1999).

    1997年度から開始された「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究」 (SAGE)では 内外の多くの機関が参加して北太平洋亜寒帯循環の全体像の把握, NPIWの形成・変質・輸送過程の理解, 二酸化炭素の挙動の理解を目的として観測・研究が進められている.この研究計画の一環として気象研究所では NPIWの循環過程の解明を目的として,本州東方海域で合計21台の中層フロートの投入を行い,亜寒帯循環域から 黒潮続流域にかけての中層循環を観測してきた (四竈ほか,1999).

    以下ではSAGEにおける観測として, 気象研究所で使用している中層フロートによって得られたこれまでの観測結果について紹介する.

    2.SAGEで用いた中層フロート

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    使用している中層フロートは米国Webb Research 社の PALACEフロート10台, APEXフロート5台および等密度追従型 APEXフロート6台である. 表1に個々のフロートの諸元を示す. 各フロートの基本的な構造はほぼ同じで,本体の大きさは長さ約1.2m,直径約20cmである. 空中での重量は約20kgで,2〜3人で比較的容易に投入することができる. 写真1APEXフロートの投入時の様子である. 本体底部にはブラッダーと呼ばれるゴム製の袋があり,これを内部にある油圧ポンプおよび空気ポンプで膨張・収縮することで 全体の体積(浮力)を変え,浮上や沈降を行う. 本体頂部に水温,塩分,圧力の各センサーと人工衛星を経由した通信のためのアンテナがある.

    図1(a)図1(b) に今回使用した各タイプのフロートの動作の概要を示す. PALACEフロートと APEXフロートは電源を入れてから6時間後に沈降を始め数時間で設定した深度に達し, 数日から十数日間中層を漂流する.その後ブラッダーを膨張させ浮上しながら水温・塩分・圧力を計測して 海面に浮上する.海面ではアルゴスシステムを利用して位置決定を行い,観測データを送信する. 十数時間位置決定とデータ送信を繰り返した後,再び沈降して中層を漂流する. このような動作を数十回から100回程度繰り返す.

    水塊は等圧面よりも等密度面に沿って流れると考えられることから,2000年度に気象研究所では Web research社との共同で新たに等密度追従型 APEXフロートを開発した (四竈ほか,2001). これはAPEXフロートをさらに改良して,中層漂流中に水温,塩分,圧力を計測してポテンシャル密度を計算し, 一定のポテンシャル密度内に留まるように自働的な浮力調整を行うものである. APEXフロートは漂流層と鉛直分布を観測する層(プロファイル深度) を別々に設定できるように設計されているが,ここで使用した APEXでは中層の流れをより精確に観測するためにその機能は使っていない. 等密度追従型 APEXでは, AROGO計画に資するため,1000m深までの鉛直分布を観測するように設定した. 機器自体の耐圧強度は2000mあるが,投入海域付近は水深1000m程度の陸棚や海山が多く, 着底して動けなくなるような事態を避けるためプロファイル深度は1000mとした. ここで使用した中層フロートは表1に示すように塩分センサーを搭載したものとそうでないものがある. 工場出荷時の各センサーの精度は塩分センサーの無いものは水温±0.01℃,圧力±1×104Paである. 塩分センサーの付いたものはいずれもSea Bird社製のモジュールを使用しており,この場合は水温0.002℃, 塩分0.005 psu,圧力2.4×104Paとなっている.しかし,投入後は回収が困難なのでセンサーの経時変化や 生物付着等の影響を正確に見積もることは難しく,観測された水温,塩分の鉛直プロファイルデータを 海況解析等に利用する際には,気候値や時間的・位置的に近い観測船等のデータと比較するなどして データの品質管理に留意する必要がある.

    3.中層フロートの投入と動作状況

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    図2に各フロートの投入位置(色付きの〇印)と2001年12月までの中層での軌跡を示す. 黒丸はこの時までの最新位置である.

    1998年5月に気象庁の凌風丸で5台(01971〜01975: 図2(a)), 11月には函館海洋気象台の高風丸で5台(15324〜15329: 図2(b)) のPALACEフロートを本州東方海域で投入した.これらのフロートの中層での漂流深度は NPIWの塩分極小層が 存在する深さを考慮して北部で400m,南部で600m程度に設定した. 浮上周期は15日である.いずれのフロート非常に複雑な動きをしているが,皆次第に東方に移動している. これらのフロートのこれまでの実際の漂流深度(浮上直前の圧力)は海況によって最大約100×104Paの変動があり, 上層に暖水がある時に深くなる傾向が見られた.

    1999年11月には高風丸で5台の APEXフロート(25335〜25350: 図2(c))を投入した. 中層の漂流層は5台とも400×104 Pa(深さ約400m)で,浮上周期は8日である. 表1に示した実際の漂流中の圧力(浮上直前の圧力)をみるとその標準偏差は10×104Pa 以内で, PALACEフロートに比べ非常に安定して設定した400×104Pa 付近を漂流していることが判る. 海面付近は夏季の加熱で海水密度が非常に小さくなる.このため中層フロートの浮力が不十分だと 夏季に海面まで浮上できなくなるというトラブルが起きることがある("夏休み"と呼ばれる). このとき投入したフロート25336もこれまで2回の夏を経験しているが,いずれの夏も浮上していない. 北緯40度・東経151度付近から北緯46度・東経163度付近に延びる長い矢印はこのために生じたものである.

    2001年2月に高風丸で2台の等密度追従型 APEXフロート(05663,05664: 図2(d)) を常磐沖の黒潮続流付近に投入した. 図3に05663の中層漂流時のポテンシャル密度と 圧力の推移を示す。設定した密度層は本州東方海域で NPIWの塩分極小層のある26.7σθである. いずれも投入した当初は少し浅い層までしか潜らなかったが,次第に所定層に近づき3回目の沈降で所定の26.7±0.1σθの層に達した. 5月には水産総合研究センターの東北区水産研究所蒼鷹丸と北海道区水産研究所北光丸によって それぞれ黒潮続流域と親潮域に2台ずつの等密度追従型 APEXフロート(05665〜05668: 図2(d))を投入した. 2月の経験を踏まえて事前の浮力調整を慎重に行ったので早く設定層に落ち着かせることができた. 中層ではポテンシャル密度(σθ)が26.7σθから±0.1σθずれると浮力を調整するように設定したのであるが, 表1の実際の漂流密度をみるとほぼこの範囲内に収まっており良好に動作している事が判る.

    図4(a)(b) 2001年2月に投入した等密度追従型 APEXフロート05663( 図2(d) の最も東に流れているフロート)によって観測された水温・塩分の時間断面で,横軸は浮上回数である(浮上は7日周期). 塩分−時間断面をみると塩分極小層はおおむね26.6σθと26.8σθの線の間にあり, フロートは塩分極小層を順調に追跡していることが判る. また,塩分極小層付近の塩分構造は東経158度付近のシャッキー海膨付近までは非常に複雑な様相を呈しているが その後は比較的安定した構造となっている。

    気象研究所がSAGEの中でこれまでに投入した中層フロートは合計21台であるが, 2001年末現在、ほぼ全てのフロートが順調に稼動中(25336は夏〜秋に海面への浮上ができず,25337は水温プロファイルの観測ができない) で1か月あたり約60個のデータが追加されている.

    4.中層循環の推定

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    図2の矢印の根元が各フロートの沈降点,先端が浮上点でおおまかに中層での漂流期間の平均的な流れを 表していると考えられる.しかし図に見られるように個々のフロートは複雑な動きをしている. これはフロートが渦に取り込まれたり,一般流に流されたりしているためであると考えられる. このため個々のフロートの動きから中層の循環を推定することは難しい. Lavender et al.,(2000)は北大西洋のラブラドル海盆で200台を超える中層フロートの7,000個におよぶ 軌跡データからラブラドル海盆での中層循環の平均場を求め,東西グリーンランド海流,ラブラドル海流や それらに伴なう反流に対応する流れ等を詳細に描き出している. ここでも同様の解析を行い西部北太平洋の中層循環の平均像を求めることを試みた.

    表1にみられるように各フロートはそれぞれ異なった深さの層を漂流しているが,塩分センサーが無いため 実際に漂流している深度の密度が分からないものが多い.そこで2001年12月までに得られた1425個の中層における軌跡データから TOPEX/POSEION衛星による海面高度と NCEPの 日毎の風応力の気候値を使った海洋データ同化モデル(蒲地ほか,1998)の結果(1998〜2000年の平均値) を使用して,概ね NPIWの存在する ポテンシャル密度26.4〜27.1σθの層を漂流していたと考えられる1236個のデータを抽出した. 緯度1度、経度1度ごとの格子点について250km以内にある軌跡データを使って距離による重み (100kmで1/eになるようなガウス型の重み)を付けて平均処理を行い 中層での平均速度、平均圧力および平均水温を求めた。 このとき、250km以内のデータが5個未満,データが各季節に渡っていない場合,および100km以内にデータが無い場合には平均速度は 求めなかった. 同化モデルの各密度面での流速の比は 図5のようになる。 上で求めた速度場、圧力場にこの関係を適用して26.6〜27.0σθ各密度面における速度場を推定した。 図6 に一例として26.7σθ面での速度場を示す.矢印が推定された流速で、青系統の色分けは海底地形を表す. 等値線は海洋データ同化モデルによる,2250×104Pa基準の26.7σθ 面上における加速度ポテンシャルの1998〜2000年の平均値である. 地衡流は加速度ポテンシャルの等値線に沿って流れる.平均流速を表す矢印は同化モデルの等加速度ポテンシャル線に おおむね沿っているように見える.また北緯30度よりも南下するフロートは稀であるが,南下するものは加速度ポテンシャルの 山の肩や鞍部を選択的に通っているように見える. 図示しないが、海洋観測データから作成されたHydrobase (Macdonald et al.,2001)の気候値から推定される中層循環では 平滑化された形となり、フロートデータとの細部の対応は判然としない。

    また 図6 では東経150〜170度の海域では3本の強い東寄りの流れが見られる.最も顕著なものは北緯32〜35度の黒潮続流付近で, 流速は10数cm/secから20cm/sec程度である.北緯42〜45度付近には亜寒帯循環に沿った数cm/sec〜10cm/sec程度の流れが見られる. 3つめの流れは北緯39〜40度付近にあり,流速は数cm/sec程度である.

    図7 に海洋データ同化モデルによるポテンシャル密度26.7σθ面上における1998〜2000年の平均速度ベクトルを示す. 同化モデルの平均場でも黒潮続流に沿った流れと亜寒帯循環に沿った強い流れがみられ,不明瞭ながら北緯39〜40度付近にも 比較的強い流れが認められる.流速の絶対値でみると中層フロートによる流れの方が同化モデルの結果に比べて1.5倍程度強くなっている.

    図8 は1998年6月に気象庁の凌風丸によって観測された東経165度線のポテンシャル密度(σθ)の鉛直断面である. 図の右が高緯度側なので等値線が右上がりに傾斜したところが東向きの地衡流に対応する. 26.7σθの密度層付近では北緯35〜36度,北緯45〜48度および北緯39〜40度(図の矢印)に右上がりの 急傾斜の部分があり東向きの流れが示唆され,観測船による定線観測でも中層フロートから得られた3本の東向きの 流れに対応していると考えられる密度分布が確認できる. また北緯38〜40度では等密度線は下に凹となっており,時計回りの渦の存在を示していることも考えられる. 北緯40度付近を挟んで南側に黒潮続流から分離・発生した時計回りの渦が,北側に亜寒帯循環から分離・発生した 反時計回りの渦が存在することが多いために,平均場で見た場合北緯39〜40度付近に比較的強い流れが現れるという ことも考えられる.

    同化モデルによる26.6〜27.0θの層厚と中層フロートの動きから推測した各密度面での流速から 26.6〜27.0θ層での流量を求めた。 図9(a)に総流量を示す。 青−赤の色分けは漂流層の水温から推定した親潮水の割合である。 図9(b)は総流量に 親潮水の割合を乗じて求めた親潮水の流量である。また、 図9(c)は 黒潮水の流量(総流量−親潮水流量)である。 26.6〜27.0θ層における本州東方海域への黒潮水と親潮水の流入量はともに8Sv程度で,黒潮続流付近の流量は 7〜4.5Sv,亜寒帯循環に沿う流れは5.5Sv,北緯40度付近の流れは3.5〜5Sv程度と見積もられる。 本州沿岸域では親潮水の南下が顕著で,黒潮続流付近でも相対的に親潮水の割合が大きくなっている。 黒潮水の割合が50%以上になるのは東経150度付近で北緯40度,東経170度付近では北緯42度付近で, 東側ほど北上している。

    5.おわりに

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    これまで海洋の監視は観測船や研究船をはじめ篤志船,定置ブイ,漂流ブイおよび観測衛星等によって成されてきた. しかし船舶やブイによる観測は空間的,時間的に偏在しており量的にも十分とは言えない. また,衛星観測では海面や極く表層の情報しか得られない. PALACEフロートや APEXフロート等の中層フロートは投入すると 数年間にわたって沈降と浮上を繰り返し,水温・塩分の鉛直分布を観測してほぼリアルタイムで自働的に観測データを 通報するものである.一旦投入すると回収が難しいのでセンサーの精度や生物等の付着による経時変化を正確に 見積もることが難しいといった問題もあるが,中層フロートは海洋内部の監視を行うための非常に有効な測器である と言える.

    SAGE は今年度で終了であるが,これまでのところ本州東方海域の中層水が亜熱帯循環域に展開していくとことを示す 明確な中層フロートの移動は観測されていない。 NPIW のさらに広範囲への展開過程を把握するためには今後も中層フロートによる直接的な観測の継続が必要である。

    2000年には世界気象機関 (WMO)、 ユネスコ政府間海洋学委員会 (IOC)等の関係機関による国際協力のもと、全世界の海洋の状況を リアルタイムで監視・把握するシステムを構築するARGO計画と呼ばれるプロジェクトが開始された (例えば 四竈,2000). アルゴ(Argo)とはギリシャ神話の英雄イアソン(Jason)が乗った船アルゴ (Argo)号にちなんで全世界中層フロート観測網 (A Global Array for Temperature/Salinity Profiling Floats)につけられた名前である ( http://w3.jamstec.go.jp/J-ARGO/index_j.html ). この計画では世界の海洋に3,000台の中層フロートを投入して,2000m程度までの全球的な海洋観測網を整備し, WMOおよびIOCによる全球海洋データ同化実験 (GODAE)等と 連携して海洋内部の熱輸送過程の解明を進め,気候変動予測精度の向上をめざしている. 日本ではミレニアム・プロジェクトの一環として文部科学省と国土交通省が連携し、水産庁等の協力の下、 『高度海洋監視システム(ARGO計画)の構築』を推進している. 気象庁もこのプロジェクトに参加して中層フロートの投入を行ったり,リアルタイムデータベースを運用して 即時的なデータの公開を行っている.

    このように中層フロートは海況監視を通して気候変動予測のための道具としても今後その重要性を増すものと考えられる.

    参考文献

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    略号表


    2001.12.28

    岩尾 尊徳

    tiwao@mri-jma.go.jp
    気象研究所 海洋研究部
    〒305-0052茨城県つくば市長峰1−1
    TEL:0298-53-8660 FAX:0298-55-1439