OICEにおける亜寒帯水流量/水塊変動

 

伊藤進一

・渡邊朝生・清水勇吾(東北水研)・植原量行(遠洋水研)

宮尾孝(函館海洋気象台)・野澤清志(岩手水セ)

三宅秀男(北大水産)・川崎康寛(北水研)・安田一郎(東大理)

 

1.はじめに

SAGEのもと,海面高度計衛星TOPEX/POSEIDON(以後T/Pと記す)の軌道060沿いに襟裳岬沖親潮集中観測線(OICEOyashio Intensive observation line off Cape Erimo)を設定し,北太平洋中層水のもととなる親潮水の構造と流量の変動を調べるため,繰り返し海洋観測と係留観測を行っている(図1).

これまでの成果として,

@衛星海面高度データと親潮域の流速場・流量の対応の明確化,

A暖水塊の存在と親潮南下流量の関係,

があげられるが,今までの解析では,時系列を長くするために,親潮流量として,1000db基準の地衡流南下流量を用いていた.今年度は,水産庁A-lineや気象庁PH線,144ºE線などとの比較を可能とするため,2000db基準の地衡流量を用いるとともに,南下流量のうちの親潮成分と黒潮成分を分離するために,Yasuda et al.(2001)Shimizu et al.(2001)らが用いている親潮・黒潮混合比を算出し,南下流量に混合比をかけて親潮南下流量を算出した.標準的な親潮と黒潮のプロファイルとしては,Yasuda et al.(2001)のものを使用している.

 ここでは,OICEにおける中層親潮南下流量の

季節・経年変動と,他定線での中層親潮南下流量との比較結果について報告する.

 

2.親潮南下流量の季節変動

 2fに,OICEにおける中層上層(σθ26.627.0)の親潮流量を示す.負の値がOICEを横切って南西向きに向かう流量を示している.冬季の南下流量が41ºN以北で大きいことがわかるが逆に,冬季以外は4041ºN間での南下流量が大きい.岸からの積分南下流量(図2gを見ると,冬季に北海道沿岸域で顕著な南下流があることがわかる.しかし,39ºN付近まで積分した流量については,季節による違いは明確でない.これは,前述した40−41ºN間の南下流量の存在のためであり,暖水塊の南端あるいは親潮第2分枝などの影響であると考えられる.また,黒潮流量はこの層においては,ほとんどない(2h).

 また,各季節による中層上層の厚さ,温位,塩分(2ac),混合比,渦位(2de)の分布から,冬季に親潮南下流量が大きくなるのは,沿岸側に低渦位水,沖合側に高渦位水(41ºN付近)が存在することによって,渦位ギャップを作るためであると考えられる(2e).特に,冬季に沖合側に存在する高渦位水は厚さが薄く,西部亜寒帯循環水の特徴を有しており,そのため,冬季なのに温位,塩分とも高くなっている.このため,混合比としてはやや低くなる傾向を示す.これらの特徴は,中層下層(σθ26.627.0)でも共通である.

 親潮南下流量の季節変動をまとめると,2000db基準の親潮南下地衡流量は冬季に最大となり(表1),親潮混合比は冬季に最低になる.これは沖側に存在する西部亜寒帯循環起源と考えられる高渦位水の存在によるものと考えられる(図3).この季節変動の特徴は,A-linePH線でも見られており,日本近海の親潮域の特徴といえる.

 

表1.親潮南下流量の季節変動

 

                              密度層                 冬                             夏  

26.6-27.0σθ          3.9Sv                    0.4Sv

27.0-27.4σθ          4.1Sv                    0.8Sv

 

3.3.経年変動

 親潮南下流量の経年変化を図4に示す.図4から親潮南下流の中心が沿岸側にある場合と沖合側にある場合があることがわかる.沖合側にあるときは,暖水塊が存在しているときに相当し,暖水塊の中心は41ºN付近に現れ,その北側で親潮流量も北上流,南側で南下流という高気圧性循環を示す.基本的には,暖水塊の存在によって,中層も同じ向きの循環を示すことになる.暖水塊が存在する典型的な例を図5に示す.図5から暖水塊は基本的に二重構造をしており,26.6σθより上層では黒潮水が,下層では親潮水が循環していることがわかる.

 暖水塊が無い場合は,親潮南下流の中心は北海道沿岸域に現れる.岸からの積分流量で両者を比較すると,暖水塊がある場合でも無い場合でも,最大南下積分流量は5Sv程度であり,あまりかわらないことがわかる(6).つまり,暖水塊の存在は,中層親潮水の南下を阻むものではなく,コースを替えているに過ぎない.

また,経年変化に注目すると,19971999年は暖水塊が多く存在し,中層で高塩化していた.その後,2000年からの親潮が強化され,低塩化していた.この変動傾向はPH線でも見られる.しかし,A-lineではやや遅れて変動が現れている.これは,暖水塊が北上するため,南から北へと情報が伝播するためだと考えられる.このように日本近海の親潮域においては,親潮の変動は上流から伝播するだけでなく,下流からも暖水塊の存在を通して影響が伝播する可能性が考えられる(図7).

  また,2000年からの親潮の強化に対応して,黒潮も強化されていることが,混合比の分布の解析からわかった.つまり,2000年に見られた変動は,亜寒帯循環も亜熱帯循環も強化され,混合域が狭まったと推測される.