1.北太平洋亜寒帯循環の構造と変動の解明

(2)亜寒帯の表層循環変動に関する研究

  1)漂流ブイを用いた表層循環変動に関する観測研究

 

海上保安庁水路部 寄高博行

 

1.はじめに

 北太平洋亜寒帯域における表層循環像は蓄積された観測データをもとに、1960年代から描かれ(Dodimead et al., 1963; Favorite et al., 1976)、知見が付け加えられてきた。しかしながら境界流付近を除くと、特に冬季の観測データ不足により、その平均的な季節変動像を示すことは未だ容易とは言えない。

 表層漂流ブイは冬季にも流速データを得るために有効な機器であるが、表層循環像の再構築を目指してWOCEのもとで推進されたSVP(表層海流観測計画)においても北太平洋亜寒帯域の多くの部分は観測空白域として残された。この空白域をできる限り解消するため、1997年度に開始された科学技術振興調整費によるSAGE(北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究)において、海上保安庁水路部では西部域・北部域を中心として表層漂流ブイを放流するとともに、既存データと併せて北太平洋亜寒帯域における表層循環の平均的季節変動の描写を試みた。

 

2.データ

 SAGEにおいては、第I期(1997-1999年度)には従来海上保安庁水路部で用いてきたタイプの表層漂流ブイ16個が測量船から西部域を中心として放流された。第II期(2000-2001年度)には表面ブイからドローグまでが一体化された米国型の表層漂流ブイ30個が、北大水産学部「おしょろ丸」及び海洋科学技術センター「みらい」から、北部域を中心として放流された。

 1987年以降、SVPにおいて放流された表層漂流ブイは海面下15m深に中心をもつホリィソック型のドローグを持つものが大部分を占め、位置データは6時間毎に内挿されている。過去に水路部が放流した表層漂流ブイデータも含まれているが、ドローグの有無の検知方法が異なるため別途ドローグ付きの期間を抽出し、双方のデータから日平均漂流速度を算出した。

 

3.結果

 図1にデータ分布を示す。既存のデータ密度は東岸付近及び南西部で大きく、北部域及び中央域では小さかったため、SAGEにおいては観測空白域の効果的なカバーレッジが行われたと考えられる。これら全ての表層漂流ブイの日平均漂流速度を、緯度5度、経度10度のボックスに分割し、月平均漂流速度を求めた(図2)。境界流域を除く広域で、全ての月について東向きの流れが支配的であることが示される。

 この緯度5×経度10度平均の漂流速度から、亜寒帯フロントを南限とする亜寒帯海流域として北緯45-50度の緯度帯を、亜寒帯フロントと亜寒帯境界に挟まれる移行領域として北緯40-45度の緯度帯を抽出し、風応力の月別気候値からエクマン螺旋が成立していると仮定して計算したドローグ深度における吹送流を差し引き、東西流速の季節変動を調べた。風応力の月別気候値は、12時間毎のNCEP再解析データを月毎に平均し、さらに各月についてSVPの開始された1987-1998年の12年分を平均して用いた。エクマン層の厚さ(摩擦深度=流速が海面の1/eになる深度)はMichida et al.(2002)から40mと設定した。結果を図3(左)に示す。亜寒帯海流域では、西部における11月を中心とした東向き流速のピーク、東部における4月を中心とした東向き流速のピークが顕著であった。移行領域では、西部において2-4月、6-9月、11-12月など複数の東向き流速ピークが見られ、東部においては4-7月の東向き流速のピークが顕著であった。

 同じ風応力の月別気候値からスベルドラップ輸送を求め、エクマン輸送を差し引いた地衡流による東西輸送の季節変化を図3(右)に示す。順圧応答における北太平洋亜寒帯循環の縮小期と拡大期に当たる春期(4月)と秋季(亜寒帯海流域では11月、移行領域では12月)に東向き輸送がピークをとる。亜寒帯海流域では4月と11月に見られた、吹送流を差し引いた漂流速度の東向きピークはこの順圧応答に対応しており、表層循環の季節変動の主要な要素となっていると考えられる。一方、移行領域においては、地衡流輸送が東向きピークをとる4月、12月にも東向き漂流速度の増加は見られるが、地衡流輸送では東向き極小をとる2月、7-9月に、それぞれ中央部、西部における極大が見られる。この位相の不一致は、風応力の気候値から計算した吹送流を差し引いたため、観測年数の少ない場合には吹送流の大きな経年変動が残っている可能性に加え、黒潮2次前線などの傾圧的な運動の影響が考えられる。

 

引用文献

Dodimead, A. J., F. Favorite and T. Hirano (1963): Oceanography of the Subarctic Pacific Region. INPFC13, Vancouver, 213pp.

Favorite, F., A. J. Dodimead and K. Nasu (1976): Oceanography of the Subarctic Pacific Region, 1960-1971. INPFC33, Vancouver, 187pp.

Michida, Y., H. Yoritaka and T. Suzuki (2002): An Estimation of Wind-driven Component in the North Pacific Subpolar Gyre. The 17th International Symposium on Okhotsk Sea and Sea Ice.

 

 

図1.表層漂流ブイのドローグ付き期間の軌跡.赤はSAGE I期における表層漂流ブイを、青はSAGE II期における表層漂流ブイを、緑は海上保安庁水路部によるSAGE以外の表層漂流ブイを、グレーはSVPにおける表層漂流ブイを示す。

図2.月別、緯度5度・経度10度毎に平均した漂流速度ベクトル.

図3.(左)漂流速度から気候値の風応力によるエクマン流を差し引いた速度の東西成分の経度・月ダイアグラム.(上)北緯45-50度、(下)北緯40-45度.赤が東向きを、青が西向きを示す.コンターは2.5cm/s毎.

(右)気候値の風応力によるスベルドラップ輸送からエクマン輸送を差し引いた地衡流による東西輸送の経度・月ダイアグラム.(上)北緯47.5度、(下)北緯42.5度.赤が東向きを、青が西向きを示す.コンターは10000kg/m/s毎.