1. 北太平洋亜寒帯循環の構造と変動の解明

(4) 化学トレーサーを用いた亜寒帯循環変動の検出に関する研究

 

東京大学気候システム研究センター  羽角博康

 

(1)   研究目標

全球海洋大循環モデルに対して南太平洋での WHP データおよび黒潮・親潮域での気候値データを robust diagnostic の手法で取り込むことにより、北太平洋の表層から深層までにわたって信頼のおける温度・塩分場および循環場を再現する。このモデルを用いてフロンの海洋中への取り込みに関するトレーサー実験を行い、観測結果との比較・検証を通して北太平洋亜寒帯循環の変動について調べる。

 

(2)   海洋大循環モデルと物理場の再現性

使用する海洋大循環モデルは東京大学気候システム研究センターで開発された COCO (CCSR Ocean Component Model) であり、解像度は水平1度・鉛直40層である。これに対し、黒潮・親潮域における月ごとの気候値および南太平洋での WHP データ(図1)を同化する。これによって表層から深層までにわたって現実的な温度・塩分分布を再現することができる(図2)。

 

(3)  トレーサー実験

このモデルに対し、CFC11 CFC12 の大気中濃度の観測値を境界条件として与え、これらの化学トレーサーの海洋中への取り込みに関する実験を行った。実験は風が年々変動する場合としない場合について行った。風のデータセットは NCEP の1948以降の月ごとのデータセットを用い、年々変動しない場合の実験はそれを月ごとに平均したものを用いた。年々変動する風を与えた場合、CFC11, CFC12 とも、極大値や極小値などの空間的分布のパターンはよく再現している。ただし、絶対値に関しては観測値よりも全体的にやや小さめになっている。また、風が年々変動しない場合と比べると、年々変動が存在する場合のほうがより深くまで CFC が取り込まれている(図3)。このように風の年々変動の有無によって CFC の取り込みに有意な差が現れることがわかった。こうした結果を用いて、観測された CFC 濃度の経年変動が北太平洋亜寒帯循環のどのような変動を表しているのかを調べていく。

図1:観測データを同化する領域および測線

 

 

図2:太平洋東西平均塩分場。左上:データ同化前のモデル、右上:データ同化後のモデル、下:観測値

 

 

 

3:モデルで再現された1993年の179Eに沿う CFC12 濃度(pmol/kg)分布。色つきの等値線が風が年々変動する場合で、黒の等値線が風が年々変動しない場合。