平成10年度第一回「二酸化炭素の挙動」分科会報告
平成10年9月22日(火)13:30〜16:30、中央水研(責任者:佐々木克之)
出席者
緑川 貴(気象庁)、井本泰司(海上保安庁水路部)、長澤和也(遠洋水研)、津田 敦
(北海道水研)、佐々木克之・小埜恒夫(中央水研)(東海大・秋山正寿:欠席)
1. 平成9・10年度の成果および11年度の計画
1) 「炭酸系物質の時空間分布とその変動要因の把握」(中央水研)
1997年5月の144°E線の栄養塩および酸素分布から、保存性栄養塩濃度を求めてみると、
保存性硝酸塩濃度が15μM以上の親潮系水は33.5°Nの水深500m付近を除けば38°N以北(
水深500〜600m)しか存在していないことが示され、144°E線では親潮系水が亜熱帯海域
にほとんど輸送されていないと推定された。今年度は4月に観測を行い、pCO2は黒潮域で
は320ppm前後で、混合域から親潮域では220〜400ppmの間を激しく変動した。まだ十分解
析していないが、クロロフィルa濃度の高い海域でpCO2が低いので、ブルームが生じた海
域で低く、そうでない海域で高いと思われる。今年度の観測はあと1999年3月に予定して
いる。144°E線を含む三陸沖海域のおける人類起源の炭酸ガスの収支についてフロン分析
などにより検討を加えた結果、人類起源の炭酸ガスは三陸沖では取り込まれず親潮域から
のみ流入して、その量はこれらの海域に含まれる人類起源炭酸ガスの約1/10であると推定
された。
2) 海面二酸化炭素分圧の時空間分布と二酸化炭素フラックスの把握(気象庁)
高風丸に二酸化炭素観測装置を設置して本年度から観測を開始した。41.5°N線の結果で
は4月には143〜144°EでpCO2が200ppm程度と低かったが、6月には280ppm程度まで上昇し
ていた。今年度は年4回の観測を予定している。今年度は二酸化炭素データベースの構築
および標準ガスによる検定を予定している。
3) 亜寒帯循環系における二酸化炭素分圧等の観測研究(海上保安庁水路部)
今年度は8月2日〜11日に「拓洋」により47°N線で観測を行った。来年度計画は
未定で、「みらい」利用を申請している。
4) 炭酸ガス交換係数のマッピングに関する研究(東海大学)
資料後日配布
5) 動植物プランクトンの空間分布とその時間変化の観測(遠洋水研・北水研)
本年度も昨年度に引き続き、日付変更線、165°E線および北水研定線(Aライン)の調査
を実施する。7月の日付変更線と165°E線で動物プランクトンは亜熱帯側で低く、移行領
域で多く、亜寒帯で少ない、またクロロフィルaはその逆の分布を示した。この時期に亜
寒帯域ではカラフトマスが多いので、カラフトマスによる動物プランクトンの摂餌→動物
プランクトンの減少→植物プランクトンの増加というトップダウンコントロール仮説が提
案されたが、反論もあり今後の課題である。炭酸ガスとの関連で生体珪素および炭酸カル
シウムの殻をもつ円石藻について調査を実施しているが、相対的には円石藻は西側で多く
東側で少ない(Aライン<165°E線<日付変更線)結果となった。
来年度については、遠洋水研がこのプロジェクトから抜けて北水研で遠洋水研担当分も含
めて対応することとなった。Aラインではこの春からセディメントトラップを設置したの
で、生体珪素や円石藻などの季節変化を明らかにする予定である。
2. データポリシー案について
1) 海洋データに提出について
(1) 二酸化炭素分圧および関連データ(緯度、経度、水温、その他の情報)について
は気象庁でデータ管理(暫定値、その後の修正値など)をしたい。JODCとリンクしてプロ
ジェクト参加者にはオープンにする。SAGE内のデータの流通・利用についてはリンクした
ものを利用するか、クルーズレポートなどに観測内容とともに担当者を掲載して、担当者
から直接利用できるシステムを加えてはどうか。データの一般への公開については1年間
という期限は短すぎる(データの修正などの問題)のでもう少し長くしてもらいたい。二
酸化炭素分圧のQualityに大きく影響する船底水温精度については、各船で観測時に船底
水温とCTDデータの関係をチェックして、船底水温の精度を+/-0.1℃にするよう務めるの
が現実的対応であることが確認された。
(2) CTDその他のデータにつては、案の通りでよいが、CTDなどのデータからボトルデ
ータ(栄養塩、クロロフィル、全炭酸その他)など各種のデータを一律にできないので、
それぞれについて期限その他を決める必要がある。また、これらのボトルデータについて
はQuality Checkができる情報も必要なのでそのためのフォーマットも必要である。
(3) 生物データ(動植物プランクトンデータなど)はフォーマットづくりが難しく進
展していない。マスフレックスにおいて各人がフォーマットに合わせるのではなく、自分
のデータセットをそのまま提出することにしたところ、データ提出もあり、ある程度JODC
でも提出されたものに対して手を加えたという経験が出されて、このことも参考にして、
フォーマットづくりよりまず提出してもらい、それを手がかりに前進するようにしてはど
うかという意見でまとまった。
2) 海洋調査報告
Cruise Summary Report(CSR)について調べてみたところ、気象庁や水路部、海洋研など
からは提出されているが、水産庁関連では提出されていない。これは水産庁の問題でもあ
るので、水産庁内部で検討していく必要があるが、当面現在参加している中央水研および
北水研から実施していきたい。