独立行政法人 水産総合研究センター 東北区水産研究所
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海洋酸性化がエゾアワビの発育に及ぼす影響

  大気中の二酸化炭素(CO2)濃度増加は気候の温暖化だけではなく、海洋の酸性化をも招くため、このような変化に特に弱い貝類やサンゴなどの生き残りに及ぼす悪影響が懸念されています。
海洋酸性化とは、大気中のCO2が海水に溶け込むことによって、弱アルカリ性に保たれている海水の化学的なバランスが変化し、酸性側に傾くことを言います。産業革命以前に280ppmだった大気CO2濃度は、現在約380ppm(都市部では400ppmを超えることもある)に上昇しています。気象庁の観測によれば、大気CO2濃度の上昇に伴って、日本沖合の海水もすでに酸性化し始めていることが確認されています。
CO2濃度が異なる海水で、生まれて間もないエゾアワビの幼生を飼育したところ、奇形個体の発生割合が1000ppm以上の海水で増加しました(図1)。
エゾアワビ幼生 
図1. 異なる二酸化炭素濃度下でエゾアワビ幼生を75時間飼育した場合の奇形率(平均+標準偏差)。異なるアルファベットは それらの間に差があることを示す。 例:450,500ppmの奇形率(a)は、1000ppm(b)、1500,2000ppm(c)と差有り
奇形個体とは、殻の形成が不完全なため殻の中に体を縮めて引き込むことができないものを指し(写真1)、自然界ではこのまま生き延びることはできません。
エゾアワビ幼生顕微鏡写真
写真1. エゾアワビ幼生の正常個体(上)と奇形個体(下)の実体顕微鏡写真。正常個体の殻の長さは約280μm。
 電子顕微鏡で殻の形状を詳しく観察すると、1000ppm以上では殻の縁に損傷が確認されました(写真2 B,E)。2000ppmでは縁が不規則になっており、薄皮状のめくれた殻になっ ていました(写真2 C, F)。
エゾアワビ幼生顕微鏡写真2
写真2.異なる二酸化炭素濃度下(450ppm、1000ppm、2000ppm)で75時間飼育したエゾアワビ幼生の電子顕微鏡写真。殻の全体像(A, B, C)および殻口部(D, E, F)を示す。
将来の大気CO2濃度予測の様々なシナリオの中には、100年後には1000ppm前後になるとの試算もあります。既に、アワビなど水産上有用な貝類が多く生息する沿岸域では、沖合・外洋域よりも海水の酸性化が進んでいるとの報告もあり、このままCO2の排出削減が進まないと、今世紀末よりも早く貝類の発生に悪影響が生じ ることも懸念されます。
 今後も、海洋酸性化に特に弱い貝類等への影響を詳しく調べることによって、人類が超えてはならないCO2濃度の策定に 貢献していきます。

この研究を担当している沿岸資源研究室の
高見秀輝
高見秀輝主任研究員




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