海洋物理・低次生態系の変化は魚類に様々な影響を与えるが、同じ変化であっても、その影響は魚種によって異なり、また、それぞれの魚種間の優劣関係を変化させる。この魚種による応答の違いを明らかにするためには、過去の測定データ・飼育実験・現場観測等の手法を駆使して、物理環境・低次生態系変化が産卵生態、成長、生残に及ぼす影響を明らかにする必要がある。本中課題では、黒潮続流域への未成魚の加入量を魚種間優劣関係の結果指標として、卵期から未制御に至る各発生段階における環境変動に伴う魚種間関係とその変化を定量的に評価することを目的とする。
最終目標
 1系で明らかになる黒潮続流域の物理環境変化と、2系で明らかとなる物理環境変化に伴う低次食物連鎖の変化が、魚類の再生産や仔稚魚の成長生残に及ぼす影響を、飼育実験や現場観測によって明らかにすると共に、魚種間相互関係の変動機構を明らかにする。この成果は4系に受け渡し、物理環境変動に伴う魚種間関係の変化と魚種交替が表現可能な生態系モデル開発に貢献し、魚種交替予測手法の開発に資する。
研究内容
A302「成熟産卵特性の違いが魚種交替機構に及ぼす影響」
 魚種交替対象種について、実験用産卵親魚飼育技術を確立し、カタクチイワシ、マイワシ、サバ類を対象に、特に餌料環境の変動に直接対応して魚種交替機構を誘起・維持すると想定される、産卵期の開始・終了なあびに産卵盛期の内分泌制御機構など、魚種間で異なる成熟産卵特性の違いを把握する。
 世界各地における現在までの研究で、魚類のそれぞれの生活史段階において魚種交替を説明する仮説が提唱されているが、いずれの仮説についてもその検証困難さ故に直接的な証明がなされるには至っていない。本中課題では、それぞれの発生段階において魚種交替機構に関係する情報を、カタクチイワシ・マイワシおよびサバ類を対象として解析する。研究内容が多岐にわたり研究期間も限られていることから、得られた結果を4系で構築されるモデルに順次取り込み、感度解析を行うと共に結果として大きく変化する生物過程を抽出し、調査船による一斉観測によってモデルの検証を試みる。調査船による解析結果をモデルにフィードバックすることにより、限られた研究期間内で実用に耐えるモデル構築に向けた生物パラメータの提供を行う。
A305「幼魚未成魚採集結果に基づく魚種交替過程の検証」
 漁業の影響を除外して魚種交替の結果として生じる新規加入量の変動を把握するためには、漁業対象となる直前の時点での現存量を正確に把握する必要がある。本課題では、魚種交替の対象となるカタクチイワシ、マイワシ、サバ類の当歳魚現存量を、表中層トロール採集結果ならびに計量魚探データにより解析し、過去のデータを含めて環境要因変動との関連について解析する。
A303「仔魚期−変態期の餌料環境が成長に及ぼす影響」
 魚種交替対象魚種は黒潮親潮移行域で変態期をむかえるが、この時期には魚種間に優劣が生じている。しかしながら、魚種間で異なる仔稚魚期の多寡がそのまま資源加入量には結びついていない可能性も高い。本課題では、黒潮親潮移行域の餌料環境の季節変化を、海洋の中規模構造ならびに来遊する仔稚魚の摂餌成功率、ならびに成長生残過程の魚種間の差異と関連づけて概略的に解析する。
3系 魚種交替機構に関与する生理生態要因の解明
研究目的
A301「初期生活史における生物特性の複数魚種間比較」
 魚種交替の対象となるマイワシとカタクチイワシの両者について、初期生活史、特に孵化後から仔魚期を中心に、生理・生態特性の環境変動に対する応答を比較すると共に、時空間的重複による種間相互作用ならびに餌料環境との適合性を解析する。発育初期の種間関係が魚種交替に影響を与える機構を探索すると同時に、モデルに生物パラメータを提供する。
A306「魚種交替に伴う生理生態的特性の変化とその維持機構」
 小型浮魚類の資源量変動には一定の持続性が認められ、その維持には魚種毎の資源量と親魚の年齢組成等の変化が影響を与えていると想定される。本課題では、魚種毎の資源量・年齢組成・回遊経路等の変化が群れ全体の繁殖生理生態に及ぼす影響について、主に過去のデータを基に検討し、魚種交替維持機構の解明を進める。
A304「高次捕食者の捕食が仔稚魚期の減耗過程に与える影響の把握」
 魚種交替対象魚種が変態期を迎え、遊泳能力を増す黒潮親潮移行域は、カツオ類など多くの高次捕食者が来遊する海域でもあり、海域と季節により異なる高次捕食者との遭遇のわずかな違いが生残を大きく左右している可能性も想定される。本課題では、魚種交替対象種の生残と高次捕食者の捕食圧との関連を解析すると共に、産卵期の変動に伴う高次捕食者との遭遇確立の変動が魚種交替に及ぼす影響を解析する。